ILO新刊:家事労働の公式化

ILO新刊:家事労働における非公式性低減に向けた新たな戦略を提案

記者発表 | 2016/12/05

 人口の高齢化や女性の労働力率の上昇によって家事や子どもの世話、老親の介護のために家事サービスに頼る世帯が増えてきており、正確な数を出すのは困難なものの家事労働産業は成長が見込まれ、多くの国がケア危機に突入する入り口に立っています。しかし、15歳以上の家事労働者は現在、世界全体で6,700万人を数えますが、このうち5,000万人あまりが非公式(インフォーマル)雇用と見られ、様々な努力にもかかわらず、家事労働部門はインフォーマル雇用水準が最も高い産業部門の一つであり続けています。

 このたび発表されたILOの刊行物『Formalizing domestic work(家事労働の公式化・英語)』は、このインフォーマル水準を低下させる方法を検討し、状況の改善または悪化に寄与する慣行や政策手段を世界中から詳しく紹介しています。報告書の作成を補佐したILOのクレア・ホブデン家事労働専門官は、家事労働者のインフォーマル性が高い理由として、次の3点を挙げています。

  1. 雇用関係が家庭という私的領域で発生して曖昧なものとなったり、社会規範によって偽装される可能性があること
  2. 労使双方が自らの権利や責任に気づいておらず、公式の取り決めを複雑で金がかかるものと認識している可能性があること
  3. この産業部門の発言力や代表性が低いことは、時に政策形成手段の欠如を意味すること

 そして、「公式(フォーマル)化政策はこの産業部門における十分な数の人間らしく働きがいのある仕事の創出だけでなく、質の高いサービスを提供できるよう労働力が訓練されることを確保する助けになり得る」と指摘しています。

 家事労働の高いインフォーマル水準を低下させるために政府及び労使団体が用い得る手立てとして、報告書は以下のようなものを提案しています。

  • 登録手続きの簡略化、標準契約の設定、一般の人々が利用できる賃金明細モデルの公表を通じて一般世帯による雇用取り決め公式化を支援すること
  • 財政インセンティブや公共投資などを通じて個々の世帯の家事サービス利用コストを引き下げることによる公式化促進
  • 家事労働者が社会保険の対象から除外されている場合には適用を広げること
  • 技能訓練、費用や資格に適合した給与表を通じた家事労働専門職化の促進
  • 権利と責任についての労使の啓発などを含む法令等遵守キャンペーンの展開
  • 社会対話及び団体交渉を通じた労働協約の締結を目指し、家事労働者とその使用者の発言力及び代表性を促進すること
  • サービス・クーポン制度は様々な公式化手法を組み合わせた有望な道を提供すること

 本書はまた、家事労働を含む特定の脆弱な集団及び職業の場合を中心に、非公式な経済は深刻なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の欠如を特徴とする事実を認めるILOの「2015年の非公式な経済から公式な経済への移行勧告(第204号)」から家事労働者が利益を得られる方法にも光を当てています。

 本書をまとめたILO包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のフィリップ・マルカデン部長は、家事労働者の公式雇用を促進する具体的な行動を取ることは、国連の持続可能な開発目標の中でも、どんな労働者も置き去りにしてはならないことを意味する、包摂的で持続可能な経済成長と生産的な完全雇用、全ての人のディーセント・ワークを目指す目標8の達成に大いに寄与し得ることに注意を喚起して、「家事労働のフォーマル化はこの目標の達成を確保する重要な手段」であると説いています。

 4章構成の本書は、第1章で家事労働部門について概説し、第2章で家事労働の雇用の公式性・非公式性を分析した上で、第3章で公式化に向けた手法を様々に紹介し、最後に結論として全体をまとめています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。