ILO新刊:非標準的雇用形態

ILO新刊:非標準的な雇用形態は今日の仕事の世界の特徴

記者発表 | 2016/11/14

 日本でも2015年までに被用者の37%が非正規労働者になっていますが、非正規雇用、非典型雇用とも呼ばれる、臨時労働やパートタイム労働、派遣労働、下請け、従属的自営業、偽装された雇用関係などを含む、期間の定めのないフルタイム正社員契約という標準的な雇用関係にない雇用人口は世界中で増大しています。このたび発表されたILOの新刊書『Non-standard employment around the world: Understanding challenges, shaping prospects(世界の非標準的雇用:課題の理解と展望の形成・英語)』は、非標準的雇用の主な世界的動向を示し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の欠如と関連づけられることの多いこの就労形態の質の改善に向けて規制改革その他の政策の必要性を説いています。

 途上国の臨時労働もそうですが、先進国では最低時間の保障がないゼロ時間契約を含む超短時間パートや呼び出し労働へとパートタイム労働の多様化が見られます。英国では2015年末現在で被用者の2.5%がゼロ時間契約を結んでおり、米国では最低所得層を中心に労働者の1割がスケジュールが不規則な呼び出し労働に従事していたとされます。バングラデシュやインドでは賃金雇用の3分の2近くが、マリやジンバブエでは被用者の3人に1人、オーストラリアでは被用者の4人に1人が臨時労働者です。アジアでは様々な派遣・請負形態が成長し、インドの製造業では1970年代初頭にはほとんど見られなかった請負労働が2011/12年には労働者の34.7%を占めるまでになっています。

 非標準的な雇用が広がるにつれて、企業によるその使用に関する重要な違いが明らかになってきました。150カ国以上の民間企業調査によれば、半分以上の企業は臨時労働を全く用いていないのに対し、人員の半数以上を臨時契約労働者が占める多用企業は約7%に達しています。

 非標準的な働き方は労働市場へのアクセスを広げ、労使双方に一定の柔軟性を提供する可能性があるものの、この就業形態は労働者にとっての不安定性の増大と関連づけられる場合が多く、非標準的な雇用が広く見られる国では、労働者は非標準的な仕事と失業の間を行ったり来たりする危険があります。賃金面でも臨時契約労働者は同様の仕事を行っている標準的労働者と比べて最大30%不利になる可能性があります。雇用関係が曖昧な契約形態の場合は特に、就労に係わる基本的な権利の行使や社会保障給付、職場内訓練(OJT)を受けるのが難しいことを示す証拠があります。負傷率も非標準的な労働者の方が高くなっています。

 デボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長は、決して新しいものではない非標準的な雇用形態が現代の労働市場ではますます広く見られるようになってきたことを指摘して、「全ての仕事が安定した適切な収入、職業上の危害からの保護、社会的保護、団結し団体交渉する権利を労働者に与え、従業員は誰が自分の使用者であるかを知るように確保する必要がある」と説いています。

 報告書を作成したILO包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のフィリップ・マルカデン部長は、非標準的な雇用を多く使う企業は正社員についても臨時労働者についても訓練に対する投資や生産性を高める科学技術、イノベーションに対する投資が低くなりがちな証拠があることを挙げて、「非標準的な雇用を用いることから得られる短期的なコスト面や柔軟性における利益を、より長期的な生産性損失が上回るかもしれない」として、非標準的な雇用が企業に対して十分に評価されていない重要な影響を与える可能性があることに注意を喚起しています。非標準的な雇用の幅広い使用は労働市場の二極化を強め、雇用の流動性を高め、経済の安定性に影響を与える可能性があり、臨時労働や呼び出し労働に従事する労働者は信用融資や住宅を得るのがより困難で、家族を持つのが遅れることを示す調査結果も存在します。

 報告書はそこで、非標準的な仕事の質の改善に向けて四つの政策提案を示しています。

  1. 規制上のギャップを埋めること-契約形態に無関係に労働者の均等待遇を確保する政策、最低保障時間を定め、就労スケジュールの変動を制限する政策、就労形態の間違った分類に取り組む立法及び法の執行、悪用対策としてのある種の非標準的雇用の使用制限、複数当事者を伴う雇用形態における責任と義務の割当など。
  2. 団体交渉の強化-全ての労働者に結社の自由と団体交渉の権利が開かれるよう確保しつつ、非標準的な雇用形態にある労働者を代表する組合の能力構築、産業部門またはある職種の労働者全体を網羅するよう労働協約の適用範囲を拡大することなど。
  3. 社会的保護の強化-基本的な社会的保護水準を保障する普遍的な政策で補足した上で、労働時間、収入、雇用期間に関する最低限度の撤廃または引き下げ、受給資格を得るために必要な保険料納付に係わる仕組みの柔軟化、納付中断を許すこと、給付可搬性の向上など。
  4. 雇用創出を支援し、訓練のみならず育児や高齢者介護などのような家族的責任についての労働者のニーズにも対応した雇用・社会政策の整備

 6章構成の400ページ近い報告書は、非標準的な雇用とは何かを説明した上で、臨時雇用、パートタイム雇用・呼び出し労働、派遣労働その他の複数当事者が関与する契約関係、偽装された雇用と従属的自営業といった四つの類型の動向を示し、女性、若者、移民に焦点を当てて状況を解説した後、企業から見た非標準的雇用と労働者や労働市場、社会への影響を記し、非標準的雇用に見られるディーセント・ワークの欠如に取り組む方策を提案しています。

* * *

 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。報告書に関連した広報資料として、労働者の4人に1人が非標準的雇用状態にあるスペインから期間の定めのない安定した常用雇用に戻すことによって労働者、企業経営、社会にとってより良い状態を志向し、生産性も売上高も上がったあるスーパーの事例を報告する広報動画(英語)も制作されています。

 また、多数の共同執筆者による本書の全体的な調整作業を担当したジャニン・バーグILO上級経済専門官は、2016年11月18日付の英文論評記事で、使用者には柔軟性、労働者には労働市場に加わるきっかけや仕事と家庭生活を両立する機会などを提供するものの、労働者の不安定性増大とも関連する場合が多い非標準的な雇用形態を人間らしく働きがいのあるものとするためには適切な政策が必要として、本書の提示する四つの提案を詳記した上で、現在進行中の変化を免れる契約形態がない以上、あらゆる労働形態がディーセント・ワークであることの確保に努めなくてはならないと結んでいます。

 報告書著者チームの一員であるマリヤ・アレクシンスカILO経済・労働市場専門官は、2016年12月19日付の英文論評記事で、家族の世話という伝統的な役割の反映などを理由として、パートタイム労働を中心とした非標準的な雇用形態には女性が不均等に多く見られることを紹介した上で、非標準的な雇用形態の労働者と標準的な雇用形態の労働者の平等待遇確保、最低保障時間の設定や就労スケジュールの変動性の制限、フルタイムとパートタイムの相互転換を支援する政策、最低就労時間などの社会的保護を受けるための資格要件の撤廃または引き下げ、二次的稼得者を優遇するような課税制度の促進、母性保護や十分なケアサービスの公的提供を通じた男女のワーク・ファミリー・バランス(仕事と家庭の調和)の改善など、パートタイム就労を人間らしく働きがいのある就労にするための措置を提案し、非標準的な仕事の質の改善は女性の助けになると説いています。