児童労働反対世界デー

ILO児童労働反対世界デー(6月12日):サプライチェーンにおける児童労働をなくすことは一人一人の務め

記者発表 | 2016/06/08

 2016年の児童労働反対世界デー(6月12日)は児童労働とサプライチェーン(供給網)に焦点を当てています。なおも1億6,800万人の子どもが児童労働に従事している現状では、農業から製造業、サービス業から建設業に至るあらゆるサプライチェーンに児童労働が存在する危険性があります。

 世界デーに際して発表した声明で、ガイ・ライダーILO事務局長は、「正しく機能し、正しく規制された市場、あるいはどんなサプライ・チェーンにも児童労働が存在する場所などない」とした上で、昨年国連で採択された持続可能な開発目標で、児童労働に完全に終止符を打つためには今行動を起こさなくてはならないとのメッセージが確認されたことに注意を喚起して、「仕事の未来を児童労働のない未来に変える手段は共に行動する私たちの手の内にある」と訴えています。ILOの就労に係わる基本的原則・権利部のベアテ・アンドレエス部長も、グローバル化によってサプライチェーンが世界中の労働者、小規模生産者、企業を巻き込んでますます複雑になってきた現状を指摘して、このような状況下では、「児童労働に終止符を打つことは一人一人の務め」と説いています。

 ILOは国際使用者連盟(IOE)と協力して、サプライチェーンから児童労働を取り除く企業の活動を支援するものとして、企業が児童労働に関する国際労働基準に沿って事業活動を行う能力と知識を高めるための資料集となる「児童労働ガイダンス・ツール」を作成しました。使用者と協同でサプライチェーンにおける児童労働撲滅に向けて活動してきたILOの児童労働撤廃国際計画(IPEC)の長い経験を元に作成されたこのツールには、日本たばこやコカ・コーラ、アングロゴールド・アシャンティ、ヴァーレ、スターリング・マニュファクチャリングなどの幅広い企業の経験が盛り込まれています。ILOはまた、企業その他の団体が最善事例と知識を共有できる場として児童労働協議会を設け、児童労働に関するILO条約をサプライチェーンで実行する上での障害の特定、こういった障害を克服する実際的な手段の開発、集団的な行動に対する触媒作用の醸成を図っています。児童労働反対世界デーのウェブページではこういった好事例が紹介されています。

 世界デーを記念し、ILO本部のあるジュネーブをはじめ、ニューヨークの国連児童基金(ユニセフ)本部やローマの国連食糧農業機関(FAO)本部など世界各地で30以上のイベントが開かれます。6月10日まで開かれている第105回ILO総会の一環として6月8日にパレ・デ・ナシオン(国連欧州本部)で開かれるハイレベル・イベントでは、ライダーILO事務局長をはじめ、カナダのメアリーアン・ミハイチャック雇用・労働力開発・労働大臣やジャックリーヌ・ムゴ・ビジネス・アフリカ事務局長、国際産業別組織UNIグローバル・ユニオンのフィリップ・J・ジェニングス書記長といった政労使代表、プライマーク社のエシカル・トレード・持続可能性部門長、児童労働に反対するグローバルマーチの英語圏アフリカ・コーディネーター、ミャンマー・センター・フォー・リスポンシブル・ビジネス所長などが参加するパネル討議に加え、2017年に次の児童労働世界会議の主催国となるアルゼンチンのホルヘ・トリアカ労働・雇用・社会保障大臣による会議の紹介が行われます。

ジュネーブにおけるハイレベル・イベントのハイライト(英語)

 

 パネル討議に先立ち、「Choeur pour l'abolition du travail des enfants(児童労働撲滅合唱団)」による演奏が行われます。コートジボワールの音楽プロデューサー、ギー・バレリー・コンスタン・ネザ氏の呼びかけに複数のアーティスト、メディア関係者が応じて2013年に結成されたこのグループは、最悪の形態の児童労働について人々の意識を高めることを目指して「Mon enfant(私の子ども)」などの歌を発表しています。この他に、音楽を通じて児童労働に対する戦いに加わる運動である児童労働反対音楽イニシアチブの下での演奏会も世界各地で予定されています。

 また、ハッシュタグ#childlabourを用いて、フェイスブックやツイッターといったソーシャル・メディアを通じて児童労働に終止符を打つ運動を支援することもできます。

◎「私たちは決して児童労働に慣れてはいけない」

6月10日にジュネーブで開かれた児童労働反対世界デーのイベントで演奏する児童労働撲滅合唱団

 ジュネーブで開かれた6月8日の式典に西アフリカのコートジボワールから参加した「児童労働撲滅合唱団」の一員であるアキシ・デルタさんは、同国では有名な女優で、国営テレビのRTIで放送されていた人気コメディーショーに出演していたこともあります。彼女のような有名人が合唱団に参加したことを不思議に思う人もいるかも知れませんが、児童労働が自分史の一部を形成し、その代償をいまだに払い続けている彼女にとってはとても自然なことでした。

 2歳の時から田舎で祖母と暮らしていたデルタさんは、8歳の時に親戚のおばさんに引き取られて首都アビジャンに出てくるまで、ほとんどの時間を畑で過ごしていました。おばさんは良くしてくれましたが、教育を受ける機会は与えられませんでした。教育もないままに13歳でメイドとして働き始め、朝の6時から夜中1時過ぎまで働き続けても、かろうじて食べていけるだけの収入しか得られませんでした。しかし、途上国によくあるこういった搾取状態は、有名なミュージシャンとの出会いで突然好転しました。一緒に活動するよう誘われ、国営テレビの人気長寿番組で主演女優を務める機会さえ与えられました。

 そこで、ジャーナリストのキャリアも持つギー・コンスタン・ネザ氏が複数のアーティストを募って児童労働に反対する歌の録音を計画していると聞いて、デルタさんはただちに協力を申し出ました。

 ネザ氏自身がこの問題に興味を持ち始めたのは、ジャーナリストであった2012年にILOの児童労働啓発講座に参加してからです。特に期待もせずに参加した講座でしたが、ショックを受け、「僕たちコートジボワール人は児童労働に慣れがちだが、本当はそんなことがあってはならない」との感想を持つに至りました。ネザ氏は講座に参加して、自分の家族の例を思い出しました。子どもの頃、アビジャンに住んでいた彼の家にある時、山奥の僻地の村からほぼ同じ歳のいとこがやって来たのです。家族は彼女をとても良く扱いましたが、ネザ氏が通っていた学校に彼女は行かなかったという違いがありました。「とても不公平だった」と振り返るネザ氏は、「自分が成功できたとしたら、それは正に学校に行くチャンスが与えられたため」と語っています。

 講座を終えたネザ氏は、この国の誰もが児童労働を、日常生活の一部として見るのではなく、経済的搾取から自由な子どもの権利を侵害するものという本来の姿で認識する必要があると考えました。有名な作詞家のセルジュ・ビレ氏に「モン・アンファン」の歌詞を書いてもらい、コートジボワール屈指の編曲者の一人であるダビド・タヨロール氏の協力を得て曲が完成し、バンバ・アミー・サラ、ヌエラ、オディア、プリスK、セアド、スパイロー、ツール・ドゥ・ガルドなど様々なジャンルのミュージシャンに参加を呼びかけて曲を録音し、ビデオも制作しました。ネザ氏は、参加するアーティスト一人一人に研修講座に参加して、児童労働撲滅の大義に心から賛同してくれることを求めています。国営テレビやラジオを通じてこの曲は幅広く放送されましたが、ネザ氏は僻地の人々にも曲を届けたいと考え、スブレ、アベングル、ブアフレといった町でコンサートを3回開き、スブレだけでも1万人もの観客を動員するといった成功を収めました。

 「地元社会が児童労働の現実を完全に理解し、行動を起こし、見て見ぬふりをするのを止めることに同意して初めて、児童労働は撤廃できます」と、ILOの就労に係わる基本的原則・権利部のメアリー・リード・アドボカシー・パートナーシップ・ユニット長はILOが合唱団を支援する理由を説明します。

 ネザ氏は今回のスイス旅行がコートジボワール国内でもっと多くのコンサートを開くきっかけになることを期待しています。デルタさんは脚本の準備を始めた次のコメディーショーで児童労働の問題に光を当て、児童労働が子どもの未来を破壊する可能性があることを視聴者に気づかせるつもりです。「児童労働をしていて学校に行かなかったから、今でも脚本を書いたり、電子メールを送る時でさえ、いつも他人の助けが必要」として、「読み書きの困難を職業人生の大きなハンディキャップ」と認めるデルタさんの言葉には実感がこもっています。

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 以上は次のジュネーブ発英文記者発表及び広報記事の抄訳です。

 また、アルゼンチンのトリアカ大臣のインタビュー動画(西語)も制作されています。コミュニケーション・広報局のインタビューに答え、大臣は、2017年後半に開催される予定の第4回児童労働世界会議が児童労働のない、より公正な世界の実現に向けて具体的な成果を導き出せるよう、すべてのILO加盟国に参加を呼びかけています。さらに、中南米初の批准国となるべく、1930年の強制労働条約の2014年の議定書の批准に向けた手続きが進行中であることを発表しました。