ILO新刊:家事労働者

家事労働者の9割までが社会的保護から除外されている現状を示すILO新刊

記者発表 | 2016/03/14

 高い転職率、頻繁に見られる現物支払い、賃金支払いの不規則性、公式の労働契約の欠如を特徴とする家事労働は、個人世帯を職場とし、複数の雇い主の下で働く場合が多いこともあり、社会的保護の適用が難しい部門と考えられてきましたが、社会的保護に関する政策文書シリーズの一巻としてこのたび発表されたILOの新刊書『Social protection for domestic workers: Key policy trends and statistics(家事労働者の社会的保護:主な政策の傾向と統計・英語)』は、世界全体で6,700万人と推定される家事労働者中6,000万人までが社会保障の適用を全く受けていない実態を明らかにしています。

 家事労働者の68%がアジア及び中南米で働いているために、社会保障の適用不足は途上国に集中しているものの、例えば、家事労働者の約6割が社会保障制度に登録または拠出していないイタリアや、3割が適用から除外されているスペインやフランスなど、一部先進国でも不足が見られます。

 報告書はまた、現在世界全体で1,150万人と推定される移民家事労働者がしばしば、より大きな差別に直面している現状に警鐘を発しています。家事労働者に何らかの種類の社会保障が提供されている国の約14%で移民労働者には同じ権利が保障されていません。

 ILO社会的保護局のイサベル・オルティス局長は、全体の8割に当たる家事労働者の大多数が女性である事実に注意を喚起した上で、その仕事のほとんどが低く評価され、保護されておらず、高齢になったり負傷すると、年金や十分な所得扶助もなく解雇される現状について、「正すことができるし、正さなくてはならない」と訴えています。包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のフィリップ・マルカデン部長も、差別を受けやすく経済的にも社会的にも弱い女性が圧倒的多数を構成する以上、「家事労働者に社会的保護を拡大する政策は、男女平等の促進や貧困との闘いにおけるカギを握る」と説いています。報告書をまとめた社会的保護局のファビオ・デュラン=バルベルデ上級経済専門官は、適用改善策について、どこの家事労働者にも通用する唯一最適の保護モデルというものは存在しないことを認めつつも、「強制適用」を、どんな制度の下でも十分に実効性のある適用を達成する上で決定的に重要な要素に挙げています。ただし、家事労働者特有の脆弱性に鑑みると、強制適用だけでは有効ではないとして、「奨励金、登録制度、家事労働者と雇い主の双方を対象とした啓発キャンペーン、サービスクーポンの仕組み」などを戦略に含むことや、インフォーマル(非公式)労働削減に向けたより幅広い政策に家事労働を組み込む必要性を指摘しています。

 マリやセネガル、ベトナムなどの例に明確に見られるように、低所得国や下位中所得国でも社会保障制度の適用を家事労働者に広げることは実現可能で財政的にも立ち行くことを報告書は示しています。途上国を中心に適用拡大に向けた明確な傾向が見られるものの、世界的な家事労働者の社会保障未適用問題の解決は依然として大きな課題であり、社会保障がすべての人に保障されるべき人権である以上、家事労働者を除外し続けることは正当化できないと報告書は結論づけています。

 ILOは社会的保護を含む各国の家事労働に係わる法及び実務の改善を目指して2011年の総会で家事労働者条約(第189号)と条約を補足する同名の勧告(第201号)を採択しています。この二つは、家事労働部門の基本原則と最低限の労働基準を定める最も重要な文書となっています。2016年2月現在、第189号条約の批准国は22カ国を数えます。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。