ILO新刊:母子の社会的保護

ILO新刊:母親と子どもにはもっと多く(少なくでなく)の社会的保護が必要

記者発表 | 2015/05/07

 5月の第2日曜日は母の日ですが、昨年末に発表されたILOの2冊の報告書は、日本を含む188の調査対象国における母性保護及び児童・家族給付に関する各国データを元に、世界中多くの母子にとって社会的保護がまだ現実のものでない状況を示しています。『Social protection for maternity: Key policy trends and statistics(妊産婦のための社会的保護:主な政策動向と統計・英語)』は、女性就業者全体の36%しか産前産後休暇中の現金給付を受給する法定資格を有さないものの、法の実効性という観点から見るとこの割合はわずか28%に低下することを示しています。『Social protection for children: Key policy trends and statistics(子どものための社会的保護:主な政策動向と統計・英語)』も同様に懸念すべき状況を示しており、小規模の現金給付制度は近年爆発的に増えているものの、十分な児童・家族給付の入手可能性という点から見ると相当のギャップがあり、法に根ざした制度は108カ国にあるものの、対象層が限られている場合が多いことを紹介しています。

 報告書をまとめたILO社会的保護局のイサベル・オルティス局長は、出産時に命を落とす女性は世界全体で1日当たり約800人に上り、5歳未満で亡くなる幼児も1日当たり1万8,000人に達することを指摘した上で、このほとんどが「十分な社会的保護があれば予防できた」として、高い死亡率を減らす鍵を握るのは「すべての母子に対する保健医療と、十分な衣食、社会的サービス利用機会が確保される現金給付」と説いています。

 報告書はまた、財政強化策の結果として幾つかの国で見られる給付水準低下の懸念すべき傾向を示しています。オルティス局長は、欧州連合28カ国中18カ国で2008年から2013年の間に子どもの貧困率が上昇したことを指摘しています。

 一方で、対象範囲における不足は依然として大きいものの、複数の低・中所得国で有給産休期間の延長または母子を対象とした現金給付の導入が見られます。57の低・下位中所得国のサンプルを元に、報告書は国民すべてを対象とした基礎的な母性現金給付の導入には平均で国内総生産(GDP)の0.41%の財源が必要であることを示しています。皆国民児童給付の導入には平均でGDPの1.9%が求められるものの、ニジェールでは5.2%、ガイアナでは0.2%というように国による違いが大きくなっています。

 オルティス局長は、2015年以降の開発課題に関する議論が進行中の今、国際社会には社会的保護の財源特定が必須とし、サンプル57カ国ですべての妊婦とすべての児童に給付を一律に支給するために必要な合計費用は主要20カ国・地域(G20)が2009年に金融部門の救済に費やした金額のわずか0.6%に過ぎない事実を指摘して、「これは正しい優先事項選択の問題」と説いています。2012年のILO総会で採択された社会的な保護の土台勧告(第202号)は、社会保障拡大のための道筋を示しています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。