パートナー

ILO政労使理事

  •     尾池厚之 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 特命全権大使  
  •     郷野晶子 連合 参与
  •     長澤恵美子 経団連 労働法制本部 参事 

ILOと日本のパートナーシップ

日本とILOが協力覚書に署名
2017年5月13日

 ガイ・ライダーILO事務局長が、二度目の日本公式訪問で、厚生労働省との協力覚書に署名し、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会との協力態勢を固めました。









ガイ・ライダーILO事務局長(左)と日本の塩崎恭久厚生労働大臣(当時)。
©厚生労働省

ILO開発協力への日本の支援

日本は開発協力の分野において、ILOと長きにわたる関係を築いており、その始まりは、ILO/日本マルチ・バイ事業の最初のプロジェクトとして、アジア地域婦人労働行政セミナーが日本で開催された1974年に遡ります。以来、日本は、とくにアジア太平洋地域における社会的正義とディーセント・ワークの推進に関して、ILOの主要パートナーとしての地位を確立しています。日本はILO通常予算への拠出額が3番目に大きい国であり、2012年から2018年までの任意拠出金は3,680万米ドルに上ります。

1.日本政府

アジアへの支援

a. ILO / 日本マルチ・バイ事業
1974年にアジア16カ国の女性労働担当官が参加して東京で開催された「アジア地域婦人労働行政セミナー」を皮切りに、日本政府はILOの特定プロジェクトに任意拠出という形で、労働分野(雇用・労使・安全衛生・女性と子ども・人材育成等)における様々な協力を行っています。黎明期である1977年~1986年には安全衛生や労働基準の分野を中心に日本国内でも1~2年のプロジェクトを行っていました。そして1987年以降、海外の地域プロジェクトへの出資が開始され、日本の協力内容は飛躍的に拡大・充実しました。これらの技術協力活動は「ILO /日本マルチ・バイプログラム」と呼ばれ、アジア・太平洋地域の労働分野における諸問題の解決に貢献しています。

詳しくはこちらをご覧ください。(英)
2020年度の「ILO /日本マルチ・バイプログラム」の実施事業
  1. アジア地域の人的資源等強化向上事業 (Industry Skills for Inclusive Growth Phase 2 (InSIGHT-2)        
  2. アジア地域のグローバル・サプライチェーンのディーセント・ワーク実現に向けた体制確保支援事業 (Towards fair and sustainable global supply chains: Promoting decent work for invisible workers in South Asia
  3. アジア地域における労働安全衛生活動促進支援事業(カンボジア)(Enhancing Occupational Safety and Health Standards in Construction Sector in Cambodia)        
  4. アジア地域における労働安全衛生活動促進支援事業(ミャンマー)(Safety + Health for All Workers in Myanmar)        
  5. アジア地域等における社会セーフティネット構築のための基盤整備等支援事業 (ILO/Japan Fund for building Social Safety Nets in Asia and the Pacific (SSN Fund))       
  6. アジア地域の児童労働撲滅等対策事業 (Achieving reduction of child labour in support of education programme to reduce the worst forms of child labour in agriculture)      
  7. TPP加盟国における労働環境水準の向上 (Creating and Activating implementing Legal and Institutional Framework, and Strengthening Organizational Capacity for New Industrial Relations Framework in Respect of the ILO Declaration on Fundamental Principles and Rights at Work (NIRF Programme))

b.アジア地域における社会セーフティネット基盤整備支援基金 (ILO/Japan Fund for Building Social Safety Nets in Asia and the Pacific, SSN Fund)
SSNは総額400万米ドルを超える基金で、アジア地域における社会セーフティネット構築の基盤となる、政府系調査研究機関の能力向上・ネットワーク化支援、労使関係団体の活動支援、民間援助団体の評価・指導・ネットワーク化、災害復旧への支援など、被援助国のニーズに応じた様々な支援を行っています。

関連動画 (b.「アジア地域等における社会セーフティネット構築のための基盤整備等支援事業」)

アフリカへの支援

c. 「モザンビークにおけるサイクロン・イダイに被災した農村道路のアクセス復旧と雇用創出」プロジェクト
2019 年はじめ、2 つの連続したサイクロンが中部・北部モザンビークを襲い、220 万人の人々に緊急支援が必要となりました。被災によって、最低限の生計手段や仕事が奪われ、必要不可欠のインフラへの被害に加え、市場へのアクセスも分断されました。モザンビーク政府とILO は、日本の支援を受け、最も深刻な打撃を受けたマニカ州の雇用の復興のために、「農村道路のアクセス復旧と仕事」プロジェクトを2020年に開始しました。ILO は、日本の支援を受け、被災地であるマニカ州における地域レジリエンス(強靭性)の強化と交通アクセスの改善に取り組むとともに、被災した地域が自ら所得を生み出せるよう、地域コミュニティの雇用創出にも貢献します。活動の主目的は、革新的で雇用集約型な手法を用いて、人道支援に不可欠な生活道路を復旧することで、サイクロン被害が最も深刻な地区の人間の安全保障を改善し、地域経済を迅速に立て直すことです。プロジェクト活動では、災害に強い道路インフラを再建する地域の能力強化、若者や他の脆弱なグループのための生産的な雇用機会の最大化、国の道路セクターにおける雇用集約型道路建設技術の主流化、などを実施します。コロナ渦で活動が制限される中、2020年11月 には公式式典が開催され、現場での活動が本格的にスタートしました。式典には、木村 元(はじめ)駐モザンビーク日本大使の他、モザンビーク政府機関およびILO関係者がオンライン参加しました。

©ILO:モザンビークにおける地元資源を使った土のう技術研修

d.「モーリタニアでの雇用集約型建設による難民・受入れコミュニティの若年雇用創出支援」
モーリタニアへの難民の流入は、マリでの暴力の激化により2018年に急速に増加し、マリ人の新規難民は5,800人を越えました。2019年1月31日時点で、Bassikounou南東の 乾燥地帯にあるムベラ難民キャンプにおけるマリ難民の数は54,957人です。





 


 

日本政府は2019年、ディーセント・ワークと雇用集約型建設事業による地域経済開発を推進し、難民と受け入れコミュニティの人間の安全保障を向上するため、補正予算から100万米ドルをILOに拠出しました。この日本の支援により、ムベラ難民キャンプと受け入れコミュニティの若い女性、男性の両方が、技能のあるなしに関わらず、現場での建設技術訓練を受講し修了証を取得することで、エンプロイアビリティ(就業能力)を強化できることになりました。活動では、メイド・イン・ジャパンのエコ建設技法を取り入れることで、地域における持続可能な社会経済開発に努めています。加えて、中央・地方政府機関に技術支援を提供することで、地域の企業と働く人々は、労働安全衛生や適切な労働環境に関わる慣行も改善しています。参照:ILO駐日事務所プレスリリース(2019年4月)・資料「EIIP公共投資を通じた雇用創出」
 
 
e. 「ガンビアにおける若者の雇用創出による持続可能な平和構築」プロジェクト








ILOは「ガンビアにおける若者の雇用創出による持続可能な平和構築」プロジェクトを2018年に実施しました。プロジェクトでは、2017年に民主化への移行に成功した新生ガンビアの成長を促進することを目的に、日本政府が資金協力を行いました。プロジェクトの目標は、日本のNGO道普請人(CORE)とも連携して土のう技術なども導入したインフラ建設により、若者の雇用機会を創出することでディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と機会平等を促進し、持続的な平和に貢献することです。 雇用集約型投資手法を使うことで、若者、特に若い女性、教育を十分に受けていない若者や障害のある若者、あるいは帰還民を直接雇用して雇用機会を最大化し、ガンビアからの不法移民の流れに歯止めをかけました。(プレスリリース・概要パンフレット日本語英語。)2018年12月時点の主な成果は、次のとおりです。
  • 250人の若年がツーリズムと漁業部門における建設プロジェクトで雇用され、その内訳は女性と男性が半々であり、全体の12%を帰還民が占めるとともに、聴覚障害のある人が10人(男女各5人)含まれる。
  • 4人のガンビア人若手エンジニアがプロジェクトチームで雇用された。
  • Kotuでは1.2kmの遊歩道の改修作業が完了した。
  • Gunjurでは2.5kmの道路建設が進行中である。
  • 250人すべての労働者が労災・医療保険に加入した。
  • 250人すべての労働者が土のう技術と起業に関する研修を受講した。
  • すべての労働者が就業開始前に労働安全衛生(OSH)に関する研修を受講した。
  • 55人の政労使関係者が労働安全衛生の指導者研修を受講した。
  • 300人の若者が採用予定のある企業関係者と接点を持った。
さらなる情報はこちらをご覧ください。(日本語英語)、ILO駐日事務所プレスリリース(2020年2月)

同様に2012年には「ケニアにおける持続可能な開発のための若年雇用&ソマリア帰還難民への着実な支援と持続可能な生計の推進」プロジェクトがNPO道普請人と協力して干ばつの被害地域やスラムにおいて実施されました。主な活動内容は、生活道路の整備と実用ビジネス訓練の青年男女への提供、零細・小規模事業の立ち上げによる雇用創出です。このプロジェクトの成功を受け、ケニア道路省ROADS 2000プログラムに土のう・敷石技術が組み込まれるとともに、国内3ヵ所の職業訓練校でも教えられることになりました。

2014年には「ケニアにおける持続可能な開発のための若年雇用」の継続プロジェクト、「ソマリア帰還難民への着実な支援と持続可能な生計の推進 」が実施されました。


 

グローバルな支援

e. ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の派遣
外務省が実施する国際協力の一つで、将来の国際公務員として働くことを目指す日本人の若者を、国連をはじめとするILO等の国際機関に派遣する制度です。派遣費用は日本政府が負担し、ILOに派遣される場合は、ジュネーブ本部や各地のILO事務所で各人の専門に合った業務を担当します。派遣期間は原則2年間です。 
参照:外務省 国際機関人事センターHPはこちらをご覧ください。

f.ILO国際研修センターにおける研修プログラムの開発と実施

2013年よりイタリア・トリノにあるILO国際研修センターにおいて、雇用・社会保障政策に関する日本の知見・経験を活用した研修プログラムを策定・実施しています。開発された研修プログラムはアジア太平洋地域を中心に、各国の雇用・社会保障制度の整備に貢献しています。

2. 国連基金を通じた協力

人間の安全保障基金

1998年12月、小渕総理(当時)のハノイにおける政策演説の中で人間の安全保障基金の設立が発表されました。1999年に日本政府が71億円を拠出したのを初めに、2013年までに累計428億円が拠出されました。この基金の目的は、現在の国際社会が直面する貧困・環境破壊・紛争・地雷・難民問題・麻薬・HIV/エイズを含む感染症など、多様な脅威に取り組む国連・国際機関の活動の中に人間の安全保障の考え方を反映させ、実際に人間の生存・生活・尊厳を確保していくことです。
ILOは人身取引防止、児童労働撲滅、紛争防止・平和構築のための生計確保などの分野で基金の拠出を受けています。 
詳しくは -人間の安全保障基金

3. 労使団体による協力
 

政労使の三者構成をとるILOでは、技術協力活動においても日本の労働組合と使用者団体から協力を受けています。近年の例を挙げると、日本労働組合総連合会(連合)の資金援助により、1998年から2000年まで児童労働撲滅国際計画(IPEC) への資金協力を受けました。また2004年からは連合とILOによる協働プログラムとして「教育・芸術・メディアを通じた児童の権利支援プロジェクト(SCREAM)」も実施され、2007年までは教育、芸術メディアを通じたこどもの権利支援事業教材のネパール、カンボジア、インドネシア語等への翻訳が行われました。また2008年から2011年までは、インドネシア教員組合の能力強化のプログラムが実施されました。

NTT労働組合もILOの児童労働に関する取り組みに対し、支援を行っています。例として、ILO-IPECプロジェクトの現場へのスタディーツアーや、日本で行われた「児童労働反対世界デー」のイベントに対しての資金協力を行いました。

4. 民間による協力 (public-private partnership)

ILOは日本の企業や団体からも協力を受けています。
  • アフリカ協同組合リーダー視察研修支援
日本生活協同組合連合会(日本生協連)とILOは2010年より現在まで毎年アフリカの協同組合組織から5名前後のリーダーを日本に招聘し、日本の協同組合運動について学ぶ視察研修事業を実施しています。10日間ほどの滞在の間、リーダーたちは首都圏を中心に生協、農協、労働者協同組合、労働金庫、全労済、大学生協、医療生協など様々な協同組合の現場を視察します。これまでに、エチオピア、ガーナ、ケニア、レソト、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカ、スワジランド、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエの協同組合リーダーが研修に参加しました。帰国後、リーダーたちはそれぞれの国で報告会を開き、日本での経験を活かして新しい協同組合組織の設立、役員や組合員たちの能力強化などに携わっています。2019年第10回 ILO/JCCU アフリカ協同組合リーダー視察研修については、 概要、報告会まとめをご参照ください。

  • 人的支援
日本生活協同組合連合会(日本生協連)は2014年度から1期3年間の予定で、ILOとの人事交流を行っています。日本生協連本部職員1名がILO本部にある協同組合ユニットで主に協同組合に関する調査研究を行っています。このような日本の民間組織からILOへの人的支援は珍しい取り組みです。

  • 児童労働プロジェクトへの資金援助
2013年のILO報告「児童労働に対する取り組みの進展」の発表と第3回世界児童労働会議の結果を受けて、ILOでは2016年までに最悪の形態の児童労働を撲滅するためのキャンペーン「児童労働にレッドカード」を開始しました。日本でも東京、大阪でイベントが開催され、ILO活動推進日本協議会が「児童労働にレッドカード」ILO活動支援募金を行っています。

2007年にはILOが児童労働撤廃国際計画(IPEC)の一環としてタイ北部で実施していた活動に対し、イオン株式会社(千葉県)から寄付を受けました。この寄付金は、チェンライにおける学校、地域社会での児童労働及び人身取引の危険に関する啓もう活動、児童・若者が地元労働市場に参入することを目的とした教育、訓練、キャリア開発に活用されました。

  • ジャワ島中部地震復興プロジェクトへの寄付
2006年5月にインドネシアのジャワ島中部で発生した地震の復興支援に対して日本生活協同組合連合会医療部会(現在の日本医療福祉生活協同組合連合会)より、会員組織である医療生協を通じて義捐金が集められました。この義捐金をもとに、ILOはシドムリョ村の被災者に対して建築基準に適合した建築関係の技能訓練を提供するとともに、倒壊した医療クリニックを再建しました。