活躍する日本人職員

第12回: 渡邉 友基

渡邉 友基
ILOジュネーブ本部 雇用政策局・開発投資部・公共投資と雇用創出ユニットJPO(雇用集約型投資プログラム(EIIP))

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略歴
北海道札幌市出身。OECD日本政府代表部に於いて、専門調査員(開発担当)として、主に開発援助委員会(DAC) における政府開発援助(ODA)政策や、開発センターにおける開発計画議論、及びOECD各種政策提言へのSDGsの主流化等に寄与した後、2019年2月にILO入局。主に後発開発途上国(LDC) における持続可能な質の高いインフラ投資と雇用創出計画・プロジェクトの実施と評価を担当。担当国としてはこれまでガンビア、モーリタニア、モザンビーク、エチオピアにおけるEIIPプロジェクトの立ち上げ、実施、評価に携わったほか、2021年はスーダンに於いて勤務。上智大学外国語学部英語学科(国際関係副専攻)卒。ウィーン外交アカデミーに於いて国際関係修士課程ディプロマ、及びジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)に於いて国際関係修士号を取得。
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2019年よりILOジュネーブ本部雇用政策局、開発投資部 (DEVINVEST) にJPOとして所属されています。開発投資部では主にどのような仕事に取り組まれましたか。

私の所属する雇用政策局は、「雇用・労働市場・若年部門」、「スキルと雇用可能性部門」、そして「開発投資部門(DEVINVEST)」の3つの部署から成り立っています。この中でDEVINVESTには、平和と強靭性のための雇用に関する旗艦プログラム(JPR)という、「仕事の世界からあらゆる紛争や災害等の危機への対応力を高めよう」という大きな柱があります。その柱のもと、DEVINVESTでは、1)「雇用インパクト評価」という手法を通じたセクター・産業別の政策・投資による雇用創出可能性の評価の実施し、2)そうして特定された、特に雇用創出可能性の高い社会・経済・環境インフラ部門における雇用集約型の(労働力比率の高い)公共投資を通じて仕事を生み出すことで、3)雇用契約が無く社会保障の行き届かない最も脆弱な人々のインフォーマル経済からの脱却を目指す、というのが一連の活動です。この活動の中で、私が担当しているのは、現地で必要とされている社会・経済・環境インフラの整備と、それを通じて仕事を生み出すことです。このように、マクロの視点に立ちつつも、最も現場に近い立場で、各国政府や現地のコミュニティ、そしてソーシャル・パートナー(使用者・労働者団体)と議論を重ねながら、一緒になって彼・彼女たちの生活基盤を支えていくことが、私自身の仕事でもあります。

ここで注意しなければいけないのは、各種インフラを整えただけでは、緊急的に必要なニーズに応えることはできても、長期的な持続可能性は担保できないということです。例えば、洪水で通れなくなった道路を舗装整備したとしても、定期的なメンテナンスのメカニズムや、そのための技術が現地で浸透しなければ、その道はすぐに元に戻ってしまいます。ですから、私たちは、公共事業を通じて雇用創出をする過程において、技能開発の機会を組み込むことで労働者のスキルを高めたり、そうしたスキルを職業訓練機関(TVET)等のカリキュラムに組み込んで制度化したりするほか、そうした技術を用いたビジネスの立ち上げや経営を支援したり、あるいはそうした中小企業のビジネスが成長できるような政策を国・地域レベルで支援したりしています。

実際に仕事を生み出すにあたっては、労働における基本的原則及び権利(Fundamental Principles and Rights at Work)、すなわち児童労働・強制労働の撲滅や、均等な雇用機会の確保等のほか、労働安全衛生基準の徹底など、国際労働基準の徹底が前提となります。JPRという柱の下で私が支援する雇用集約型の公共事業は、ILOが促進する条約・勧告の枠組を現地において具現化する取組と、私は捉えています。
写真:外務省との共催で実施された「ILOキャリアセミナー」でDEVINVESTの活動を紹介する様子

特に印象に残っている職務経験があれば教えてください。


私は、2021年にスーダンで勤務し、東ダルフール州及び西コルドファン州における避難民及び受入国コミュニティの保護・教育・雇用支援に包括的に取り組むプロジェクトに携わりました。このプロジェクトはILOの中でも特殊で、ILO内部で分野横断的なだけでなく、国際金融公社(IFC)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、及び国連児童基金(UNICEF)と共にそれぞれの比較優位を発揮し、緊密な調整を通じてシナジー・相互補完性を高めることが求められるものです。

これらの対象地域は、長年の紛争の影響から生活インフラが殆ど存在せず、水や土地などの基本的なアクセスを巡って難民や避難民とその受け入れ側が激しく対立し、連日何かしらの事件・犯罪が発生する、非常に脆弱な地域です。こうした紛争地域では、どのようなインフラを、どこで整備するのか、そのための労働者はいかに公平に選定するのか、そしてそのインフラは誰を裨益するのか(裨益者が偏っていないか)、といった視点が不可欠です。これらの視点を欠いてしまうと、最悪の場合、人道・開発支援そのものが更なる紛争の火種となってしまう可能性も否めません。現場でこうした喫緊の状況を目の当たりにした後、私はすぐさま平和と強靭性のためにディーセント・ワークを促進するDEVINVEST本部との調整を開始し、紛争アセスメントや、紛争に配慮した(Conflict-sensitive)形での共同プログラミングに向け、各国連機関や世銀グループとの議論・調整をリードしました。

しかし、そうした取組みを進めていく中、今度は同国で軍事クーデターが発生し、カウンターパートである各省庁の要人が拘束されるという事態が発生しました。私生活でも、インターネットが遮断されたため同僚とのコミュニケーションすら取れなくなり、また、デモの影響で主要道路も封鎖されて、一時期身動きすら取れなくなってしまいました。また、家の外からは銃声も聞こえてきます。こうした不測の事態、極度に脆弱な状況においても、各国連機関は、必要とする人たちへの支援をし続けています。こうした経験から、私たちが従事する国々の制度(Institution)や現地の人々の強靭性を高める支援だけでなく、そうした環境で働く私たち自身の強靭性の重要性も強く感じました。
写真:UNICEFが支援する学校の生徒たち。今後、ILOは、UNICEF及び現地の建設業者と協力しつつ学校建設事業を進めていく。

COVID-19により、仕事の世界はあらゆる側面で影響を受けています。現在の職務を通じて、この危機を乗り越えるため、どのような取組みが重要と考えていますか?

COVID-19による影響で多くの人々が職を失ったことはもはや周知の事実でしょう。通常、仕事を失うということは、雇用者の場合、事業が破産する、そして労働者の場合、雇用主から解雇される、ということが想定されます。しかし、主に私が従事する脆弱な国々の人たちは、そもそも雇用契約の存在しないインフォーマルな経済活動の中で生計を立てている人たちが殆どです。

こうしたインフォーマル・ワーカーは、正当な理由なく労働時間を一方的に削減されたり、賃金を減らされたり、あるいは解雇されたりしても、それに対応する法的根拠は無く、その日から食料・賃金を得る代替手段を自ら探すしか手段は残されていません。その間、もちろん政府による社会保障などの生活支援は多くの場合行き届いていないか、あるいは存在しません。そもそも、彼らがそうした状況に置かれているというデータすら存在しないのです。

こうした脆弱な環境、特に経済活動の殆どがインフォーマルで、かつ労働市場が機能していない場合、公共事業は社会保障に向けた大きな役割を果たします。最も脆弱な人々への支援を拡充し、こういう状況でも、いえ、こういう状況だからこそ続けていく、ということが求められているのだと思います。
写真:COVID-19による労働市場への影響の分析結果を、スーダン政府及びソーシャル・パートナーに説明し、今後の対応を協議する様子。

2022年2月より、イタリア・トリノにあるILOの国際研修センター(ITC/ILO)において、平和と強靭性のための雇用促進計画プログラム・オフィサーとしての勤務を開始されると伺っています。エッセーをご覧になる方の中には、JPO終了後の進路について考えている方もあるかと思いますが、JPO後の国連機関での正規ポスト獲得に向けて、どのような事を心掛けていましたか?

JPO終了後のFixed-termポスト獲得に向けては、内部だけでなく様々な国際機関での可能性を広く模索する必要があると思います。しかし、私自身はというと、ILOにおける仕事がとても充実していたので、今の仕事をいかなる形でも続けられないか、ということを根底に考えていました。そのためには、与えられた仕事には全力で取り組みましたし、そこから生まれてくるアイディアで新しい分野を開拓し、それを実施するために必要であれば自分の不得意な分野(特に多くの人の前で意見を述べたり、議論を取りまとめたりすること)にも積極的に手を挙げてきました。そうした積極性を常に肯定的に後押ししてくれる部署に配属され、本当に恵まれていたと思います。

国際機関ではネットワーキングが重要であるというのは真実でしょう。しかし、私の場合、そのネットワークは仕事を進める上で自然と広がっていったもので、いわゆる「ネットワークのためのネットワーキング」は全く行いませんでした。ILOの国際研修センター(ITC)とは通常業務上、深く関わりがありました。ITCは、ILOが取り組む各労働分野に関する職業訓練を実施し、技能開発・技術移転を行っていく、ILOの一つの柱です。私の場合は、これまで、ITCと共に、脆弱な文脈における公共事業設計や、コロナ禍における労働慣行の調整等について、主に政労使の参加者たちに対して講義を行ったりしてきました。そうした仕事上のつながりから、今回こうしたオファーを受けることができたことは、次のステップへとつながるだけでなく、これまでの私が行ってきた業務への肯定感にもつながり、二倍喜ばしく思っています。また、繰り返しになりますが、このように業務上で様々な機会が与えられ、その上で仕事上のつながりを広げていくためには、所属部署の上司や同僚の理解とサポートが絶対に不可欠です。この場を借りて、特に部長の塚本美都さん(国連広報センターブログ:「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」第24回寄稿記事)には本当に感謝を申し上げたいと思います。

最後に、新たな職務での今後の展望について、教えてください。

ITCに異動しても、私の仕事の目的に大きな変わりはありません。すなわち、脆弱な環境に置かれた人たちが必要とする仕事(ディーセント・ワーク)を、いかに生み出すことができるか、という一点です。もちろん、そのための役割は異なります。これまでは個々のプロジェクトや政策支援を通じてそれを実施してきたのに対し、ITCでは、そうした政策やプロジェクトを実施していくために必要なスキルを、より広域なオーディエンスに向けてプログラムしてカリキュラムを開発し、トレーニングを通じて広めていく、ということが主な業務になります。

私自身、学生時代は、教室の後ろ側で黙っているタイプだったので、人前に立って講義を行い、議論を進めるという仕事に就くこと自体、私自身が一番驚いています。少しずつ自分の殻を破っていく、ということは今の仕事では常に意識してきました。それでも、今でも苦手なことは沢山ありますし、周りに支えてもらわなければできないことばかりです。新しい職場では、私自身も常にスキル・アップを目指す姿勢でありたいと考えています。
写真:ガンビアにおいて公共事業を通じて支援した若者たちはビジネスを立ち上げ、自らの努力で政府から請負契約を勝ち取り、新たな事業を開拓し続けている。