活躍する日本人職員 

第11回: 川﨑 彬

川﨑 彬
ILOバンコク事務所・アジア太平洋ディーセントワーク技術支援チーム
起業家・中小企業開発担当官 (JPO)
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略歴
神奈川県出身。学生時代にモンゴル、メキシコ、ケニアでボランティアに参加し、学校に通えず仕事もない子どもや若者を多く目にしたことで、途上国でのビジネスや教育を通じた支援の大切さを実感。日系商社で3年間、建設機械ビジネスに従事しアフリカとラテンアメリカ7カ国の中小販売店の人材育成、営業能力改善に取り組んだ後、アメリカの大学院へ留学。2019年度JPOとして現職につき、カンボジアを中心にアジア太平洋地域の若者や中小企業のビジネス支援に取り組む。早稲田大学国際教養学部卒業。ジョージワシントン大学エリオット国際関係大学院国際開発学修士。在学中にILOバンコク事務所でインターンを経験。家族は日本人の妻1人。
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ILOバンコク事務所ディーセント・ワーク技術支援チームでの業務にJPOとして従事されています。現在主にどのような仕事に取り組んでいらっしゃいますか。


アジア太平洋地域の起業家、中小企業の支援に幅広く携わっていますが、主にはカンボジアの若手起業家育成プロジェクトのマネジメントを行なっています。現在、2つのプロジェクトを担当しており、1つは日本政府の任意資金拠出事業であるSSN基金(アジア地域等における社会セーフティネット構築のための基盤整備等支援事業) によるカンボジアの若者のためのソフトスキル支援プロジェクト(Supporting Soft Skills for Youth in Cambodia)。2つ目はスイス開発協力機構(SDC)が支援する若者のための働きがいのある雇用プロジェクト(Decent Employment for Youth in Cambodia)です。

これらのプロジェクトではILOが開発した活動型学習ツール(Activity-based learning)という教材を使いカンボジア政府、国際機関、NGO、大学などと連携して若者に起業家精神やソフトスキルを広める活動を行なっています。2020年には2,663人のカンボジアの若者がこのトレーニングに参加しました。参加者の多くは高校生、大学生、卒業したての若者で、中には起業する人や、トレーニングで得た知識をビジネスの改善に役立てたという人もいます。

カンボジア以外では、タイ、バングラデシュ、日本、フィジー、トンガなどでも同様のトレーニングを広めるべく活動しています。この活動型学習ツールはPeer Learning hubというウェブサイトで無償公開しており、各国から問合せをうけて、必要に応じて内容解説や使用方法の紹介などの技術支援を行っています。また、起業家育成や中小企業開発関連の国際会議やセミナー、パネルディスカッションにも参加し、ILOの活動を広めています。

写真1: ILOバンコク事務所にて、上司(右)と同僚(左)。共にアジア太平洋地域の企業開発支援に取り組んでいる。
 
 
特に印象に残っている職務経験があれば教えてください。

2020年9月にカンボジア起業家精神デー(Cambodia Entrepreneurship Day)というイベントを企画し、1880人の若者がILOの起業家精神トレーニングに取り組みました。このイベントはカンボジア教育省とILOが共同で例年開催してきたイベントですが、2020年はCOVID-19の拡大により大きな集会やイベントができなくなり、開催が危ぶまれました。そこで教育省と話し合い、初めてこのイベントをオンラインで行うことにしました。

初のオンライン開催のため、開催には様々な準備や調整が必要でした。それまで使用した教材をオンライン化したり、1880人もの若者にどうやってトレーニングを実施するか、関係者と何度も話し合い4ヶ月かけて準備を行いました。最大の課題は、全国の若者にトレーニングを届けるという点で、カンボジアは通信インフラが未整備の地域も多く、地方ではインターネットが使えなかったり、スマートフォンやパソコンを持たない若者も多くいます。この課題は結局、複数人でデバイスを共有したり、一部の農村地域では感染対策をしっかりした上でインターネットの使える施設に集まってもらう事で解決しました。

こうした調整の結果、イベントは無事オンラインで開催でき、教育省大臣からは「非常に素晴らしいイベントで今後も続けていきたい」とのコメントも頂きました。

写真2: カンボジア起業家精神デーに行われたオンラインイベント。教育省の高官と若手起業家2名がカンボジアの若者の将来や働き方について意見を交わした。
 
 
COVID-19により、仕事の世界はあらゆる面で影響を受けています。現在の職務を通じて、この危機を乗り越えるため、どのような取組みが重要と思われますか。

アジア太平洋地域の起業家や中小事業者は今、COVID-19に伴う営業規制や、需要変化で大きなダメージを受けています。特に観光、小売、飲食、娯楽施設などは十分な支援もない中で、事業継続がますます難しくなっています。私のチームでは現在こうした中小事業者の事業継続支援に取り組んでいます。具体的にはビジネスのデジタル化やキャッシュフローの見直しに役立つツールを開発し、これをまずはタイ、ラオス、カンボジア、マレーシア、フィリピンの5カ国で展開する予定です。

この新しいツールでは、これまでのトレーニングで採用した相互学習(Peer learning)の手法を取り入れる予定です。私自身、COVID-19で皆が困難な状況にある今こそ、相互の助け合いや他人を思いやる気持ちが大切と思っているので、この思いがツールを通じて多くの中小事業者に届けばと思っています。

 
エッセーをご覧になる方の中には、将来国際公務員を志望されている方もいらっしゃると思います。JPOに応募するまでの準備期間、あるいは実際に入局するまでのキャリア形成について、どのようなことを心掛けていましたか?
 
私の場合、常に3年後までの計画を持っておくよう心掛けています。国際公務員には様々なポストや雇用形態があるので、まずは自分がどういったポストにつきたいのか考え、そこから逆算して自分に必要なスキルや経験を3年かけて築いていくイメージです。どんなスキルや経験が必要かは国際機関が求人を出す際に公表するTerms of Reference(ToR)を見て研究していました。

国際機関の雇用はとても流動的で、3年後にそのポストがあるかは時の運ですので、プランBを考えることも大切です。私がJPOに応募した時には、もしダメなら開発コンサルタントやJICA専門調査員などにもトライして、2-3年間現場での開発経験を積んで再挑戦しようと考えていました。

国際公務員は終身雇用ではないので、不安定で先が見通せませんが、その反面、自分で自分のキャリアを選択できるという利点があります。先を見据えて日々きちんと準備をしていけば常に道は開けると思っています。