ILOヘルプデスク 雇用の安定に関するQ&A

Q1:ILOの基準では、誰が被用者に該当するかを決定するための指針としてどのようなものがありますか。
Q2:労働者の解雇を正当化する事由はどのようなものがありますか。
Q3:個人保護具を装着しなかったことを理由に2度目の警告なしに直ちに労働者を解雇できますか。
Q4:企業は、眼病の手術のため職場を離れている労働者を解雇することはできますか。
Q5:会社が妊娠中の女性労働者を妊娠とは別の理由で解雇し、しかも解雇時に妊娠の事実について把握していなかった場合は適法ですか。
Q6:会社が買収されたとき、(1)新会社によって引き続き雇用される従業員、(2)職を失う従業員 がそれぞれ旧会社から受ける退職手当の基準はどのようなものですか。
Q7:使用者が契約を終了させる場合、労働者には1か月分の賃金の支払いを要求する権利がありますか、また解雇予告期間はどの程度ですか。
Q8:ILOの見解として、会社の事業再構築や売却に際して労働組合を関与させるべきですか、またその場合どのようにすべきですか。
Q9:責任ある事業再構築に関連するベストプラクティスに関して、ILOには何か参照すべき情報はありますか。
Q10:長期間にわたる労働契約締結に伴う社会給付の負担を回避するために、短期の労働契約更新を長期にわたって繰り返す手法に対するILOの指針はありますか。
Q11:私は多国籍企業で働いているのですが、会社から早期退職を迫られています。アドバイスをお願いします。
Q12:ある会社では従業員が辞めるときに法的要件を上回る事前の予告を行うよう求める方針を定めています。従業員が方針に規定された期間より早く辞めた場合、会社は従業員の賃金から一定の割合を差し引きます。試用期間中に会社側から雇用終了された従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。試用期間中に自らの意思でやめる従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。これは問題ありませんか。
Q13:私はハラスメントにより解雇されました。パートタイム及びフルタイムの従業員の解雇はどのような手続であるべきですか。
Q14:会社は妊娠した女性をいつでも解雇することができますか。妊娠した女性が雇用されている国の国民でない場合、その女性はどのような医療給付を受けることができますか。

Q1:ILOの基準では、誰が被用者に該当するかを決定するための指針としてどのようなものがありますか。

A1:国際労働基準は、労働者の権利を守るうえで雇用関係を決定することの重要性を認識しています。こうした決定は、その関係が契約やその他の取決めにおいてどのように特徴付けられているとしても、主として業務の遂行及び労働者の報酬に関係する事実に従って行われます。雇用関係の存在を示す具体的指標には以下の要素が含まれます。

(a) 業務が以下のいずれかであるという事実
  • 他の当事者の指示及び管理の下で行われていること
  • 労働者が事業体組織に組み込まれていること
  • 専ら若しくは主として他の者の利益のために遂行されること
  • 労働者自身によって行われなければならないものであること
  • 業務を依頼する当事者が指定若しくは同意した具体的な労働時間内若しくは職場で行われていること
  • 特定の存続期間及び一定の継続性を有したものであること
  • 労働者に対して就労可能な状況にあることを要求すること
  • 業務を依頼する当事者によるツール、材料及び機械の提供を含むものであること
(b) 労働者に対する定期的な報酬の支払があること、報酬が労働者の唯一若しくは主な収入源となっていること、食糧、宿泊及び輸送等の現物による供与があること、週休及び年次休暇等についての権利が認められていること、労働者が仕事を遂行するために行う出張に対して当該仕事を依頼する当事者による支払があること、又は労働者にとって金銭上の危険がないこと[1]。

雇用関係の存在についての決定は、当事者間で合意された契約その他の取決めが異なる形で特徴付けているとしても、主として業務の遂行及び労働者の報酬に関する事実に従うべきです[2]。

[1]2006年の雇用関係勧告(第198号)第13項
[2]第198号勧告第9項

雇用の終了


Q2:労働者の解雇を正当化する事由はどのようなものがありますか。

A2:1982年の雇用終了条約(第158号)では、労働者の雇用は、労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならないと規定しています。


妥当な理由とみなされない終了理由としては、人種、皮膚の色、性、婚姻、家族的責任、妊娠、宗教、政治的意見、国民的出身若しくは社会的出身、労働組合加入又はその活動への参加、使用者に対する苦情の申立て、疾病による一時的な休業などがあります。

労働者は事前に書面による警告を受けていない限り、繰り返し行われた場合にのみ国内の法令又は慣行のもとで終了を正当なものとするような不正行為により解雇されてはなりません[1]。

労働者は雇用終了の決定の予告を書面で受け取る必要があります[2]。

雇用が終了されることとなる労働者は、重大な不正行為を犯した場合を除き、雇用終了の合理的な予告期間、又はそれに代わる補償を受けるべきです[3]。

不正行為を理由に雇用を終了される労働者は、雇用終了前に自己についての申立てに対し自己を弁護する権利を認められますが、使用者がその機会を与えることが合理的には期待し得ない場合は、この限りではありません[4]。労働者は他の者の援助を受ける権利を有すべきです[5]。

労働者は、権限のある機関により解雇が事前に承認されている場合を除き、裁判所や仲裁委員会などの中立的な機関に提訴する権利を有します[6]。妥当な終了理由の存在を挙証する責任は使用者にあります。その代わりに、又はそれに加えて、中立的な機関には、国内の法令及び慣行に基づいて当事者により提供された証拠に基づいて決定を行う権限が与えられます[7]。

集団的解雇の場合、企業は適切な政府機関、並びに当該企業が雇用する労働者及びその団体の代表に対して、合理的な予告を行い、悪影響を最大限に緩和するために、共同して検討を行えるようにする必要があります[8]。

[1]1982年の雇用終了勧告(第166号)第7項
[2]第166号勧告第12項
[3]1982年の雇用終了条約(第158号)第11条
[4]第158号条約第7条
[5]第166号勧告第9項
[6]第158号条約第8条第1項
[7]第158号条約第9条第2項
[8]多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言第34項

Q3:個人保護具を装着しなかったことを理由に2度目の警告なしに直ちに労働者を解雇できますか。

A3:繰り返し行われた場合にのみ国内の法令又は慣行のもとで終了を正当なものとするような不正行為を理由として労働者の雇用を終了することはできません。使用者は労働者の雇用を終了する前に適切な書面による警告を与える必要があります[1]。


[1]1982年の雇用終了勧告(第166号)第7項

Q4:企業は、眼病の手術のため職場を離れている労働者を解雇することはできますか。

A4:労働者は恣意的な解雇[1]、すなわち労働者の能力又は行為に関連する妥当な理由のない雇用の終了から守られる必要があります[2]。一時的な疾病や負傷に基づく雇用の終了はできません[3]。

[1]多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言第35項
[2]第158号条約第4条
[3]第158号条約第6条

Q5:会社が妊娠中の女性労働者を妊娠とは別の理由で解雇し、しかも解雇時に妊娠の事実について把握していなかった場合は適法ですか。

A5:労働者の能力又は行為に関連した妥当な理由、又は事業、施設、若しくは業務の運営上の必要性に基づいている場合に限り、妊娠中であっても労働者を解雇することはできます[1]。しかし、妊娠自体は解雇の妥当な理由ではありません[2]。解雇の理由が妊娠に無関係であることを挙証する責任は使用者が負います[3]。

ILOの母性保護のウェブページでは詳細情報を示しているほか、母性保護に関する法律のデータベースにアクセスできます。

[1]1982年の雇用終了条約(第158号)第5条(d)及び2000年の母性保護条約(第183号)第4条
[2]2000年の母性保護条約(第183号)第8条第1項「妊娠、出産及びその結果又は哺育に無関係な理由による場合を除くほか、妊娠中、第四条若しくは第五条に規定する休暇中又は国内法令に規定する職場への復帰後の一定期間中に使用者が女性の雇用を打ち切ることを違法とする。」
[3]第183号条約第8条第1項

Q6:会社が買収されたとき、(1)新会社によって引き続き雇用される従業員、(2)職を失う従業員 がそれぞれ旧会社から受ける退職手当の基準はどのようなものですか。

A6:雇用を終了された労働者は、離職手当その他の離職給付、失業保険若しくは他の形式の社会保障からの給付若しくは扶助、又は手当と給付の組合せのいずれかが認められます[1]。特定の状況において雇用を失った労働者に提供するうえで、どのような手段が適切であるかは国内法によります。

離職手当や離職給付が支払われる場合、その金額は勤務期間及び賃金水準に基づいて決定され、使用者により直接、又は使用者の拠出により設立された基金により支払われます[2]。

雇用が終了されず、新会社に移転される労働者はこのような規定の対象外であり、前の使用者から上記のような離職手当を受ける必要はありません。

[1]第158号条約第12条
[2]同上

Q7:使用者が契約を終了させる場合、労働者には1か月分の賃金の支払いを要求する権利がありますか、また解雇予告期間はどの程度ですか。

A7:多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)は、特に企業に適用されるILOの規範です。多国籍企業宣言は企業に対し、「国家の法令に従い、地域の慣行を十分考慮し、関係のある国際基準を尊重すること」を奨励しています[1]。

予告に関して、多国籍企業宣言第34項には次のように定められています。「多国籍企業は、雇用に重大な影響を及ぼすような事業活動の変更(合併、業務の譲渡又は生産の移転から生じるものを含む)を検討するに当っては、悪影響を最大限に緩和するために、共同して検討を行いうるよう、適切な政府機関、当該企業が雇用する労働者及びその団体の代表に対して、かかる変更についての合理的な予告を行うべきである。以上のことは、集団的レイオフ又は解雇を伴う構成体の事業閉鎖の場合に特に重要である。」

この項は「雇用に重大な影響を及ぼす」変更について述べています[2]。解雇が個人に対するものである場合、この範疇には入らないと思われます。雇用の終了に関する国際労働基準は、企業のためさらなる指針を定めています。雇用を終了される個人労働者は、重大な不正行為を犯した場合を除き、合理的な予告期間又は予告期間に代わる補償を受ける権利を有しています[3]。政府は国内の使用者団体及び労働者団体との協議により、合理的な予告期間を定めた国内法を規定する責任を負います。

解雇手当について多国籍企業宣言では、政府が多国籍企業及び国内企業と協力して、雇用関係が終了した労働者に対し、何らかの形態の収入を保障する措置を講じることを定めています[4]。国際労働基準では、雇用を終了された労働者は、国内法の規定により、離職手当その他の離職給付、失業保険給付若しくは他の形式の社会保障からの給付若しくは扶助、又は手当と給付の組み合わせのいずれかを受ける権利があると定めています[5]。

離職手当や離職給付が支払われる場合、その金額は勤務期間及び賃金水準に基づいて決定され、使用者により直接、又は使用者の拠出により設立された基金により支払われます[6]。

[1]多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言第8項
[2]多国籍企業宣言は、1963年の雇用終了勧告(第119号)第7項(1)「雇用を終了される労働者は、合理的な予告期間又はこれに代わる補償金を与えられる権利を有すべきである。」を参照している。この勧告は、1982年の雇用終了条約(第158号)及び1982年の雇用終了勧告(第166号)によって、置き換えられた。
[3]1982年の雇用終了条約(第158号)第11条を参照
[4]多国籍企業宣言第36項
[5]1982年の雇用終了条約(第158号)第12条を参照
[6]同上

責任ある事業再構築

Q8:ILOの見解として、会社の事業再構築や売却に際して労働組合を関与させるべきですか、またその場合どのようにすべきですか。

A8:事業再構築や売却のプロセスにおいて優先されるのは、事業を効率的に実施し、ディーセントな労働条件のもとで人を雇用できる持続可能な企業として会社を維持することです[1]。この目標は労使双方にとって共通の関心事項です。

労使の協力、特に労働者とその代表者を事業再構築の計画と実施に参加させることも、調整プロセスを首尾よく進めるために重要であると考えられます[2]。

雇用に重大な影響を及ぼす事業活動の変更を検討する場合、会社は雇用する労働者及びその団体の代表に対して、変更に関する合理的な予告を行う必要があります[3]。

合理的な予告とは、企業、適切な政府機関、及び労働者の代表が共同して検討を行い、悪影響を最大限に緩和するための十分な時間を提供するために「できる限り早期」[4]なものと考えられます。雇用終了を回避し又は最低限なものにするための対策、及び何らかの悪影響を軽減するための措置に関する協議を行えるよう、労働者の代表にはできる限り早期に情報提供を行うことが重要です[5]。

情報が提供された後、労働者代表との間で影響を軽減する措置に関する協議のための機会も、国内の法令及び慣行に定められた要件に基づいてできる限り早期に提供するべきです[6]。

[1]持続可能な企業及び持続可能な企業慣行を促進するための要因に関する議論については、「Conclusions concerning the promotion of sustainable enterprises」ILO総会(2007年6月)参照
[2]「Restructuring For Corporate Success: A Socially Sensitive Approach」Rogovsky, N. (ed)、ILO、ジュネーブ(2005年)
[3]多国籍企業宣言第34項「多国籍企業は、雇用に重大な影響を及ぼすような事業活動の変更(合併、業務の譲渡又は生産の移転から生じるものを含む)を検討するに当っては、悪影響を最大限に緩和するために、共同して検討を行いうるよう、適切な政府機関、当該企業が雇用する労働者及びその団体の代表に対して、かかる変更についての合理的な予告を行うべきである。以上のことは、集団的レイオフ又は解雇を伴う構成体の事業閉鎖の場合に特に重要である。」、また1982年の雇用終了勧告(第166号)は、第20条第1項及び第2項で、企業に「できる限り早期に関係のある労働者代表と協議」し、「計画された主要な変更及びそのような変更が及ぼすおそれのある影響に関連するすべての情報を適切なときにこれらの代表に提供」することを奨励
[4]1963年の雇用終了勧告(第119号)第13項(1)
[5]1982年の雇用終了条約(第158号)第13条
[6]第158号条約第13条第1項(b)

Q9:責任ある事業再構築に関連するベストプラクティスに関して、ILOには何か参照すべき情報はありますか。

A9:好ましい慣行については、関連基準に基づく以下のステップが有用な指針となります。
  • ステップ1:再構築の必要性について企業、労働者、及びその代表との間で対話を開始することは重要な第一歩です。これにより、行われる変更についてアイデアのシミュレーションを行うことができ、効率的な再構築を妨げ混乱させることになるようなおそれや懸念を緩和することができます。
  • ステップ2:関連情報を共有することにより、全員が問題を理解することができます。そこから会社の状況を正しく示し、変更の必要性を説明することができます[1]。
  • ステップ3:悪化又は低迷する経済状況への対応として事業再構築が提案される場合、短期的な危機対応ではなく長期的シナリオを考えることが重要です。取り得る選択肢について労働者及びその代表者との対話の場を持つことは、幅広い代替案を特定することに役立ちます[2]。
  • ステップ4:変更は、国内の法令及び慣行の要件と一致した形で実施する必要があります。特に、客観的判断基準を根拠とした責任ある変更を実施すべきであり、不当な根拠による差別的な変更であってはなりません。
  • ステップ5:変更の導入時及び完了後の評価は重要な要素であり、起きたことから学び、目標が達成されたかどうかを精査することができます。
別の選択肢について協議・検討した結果、変更プロセスの一環として労働者のレイオフが必要であることが明白となった場合、責任をもってこれを行うため取るべき追加のステップがいくつかあります。
  • 提案される解雇について労働者及びその代表者と協議します。協議にはあらゆる関連情報の提供も含まれ[3]、レイオフの悪影響を回避又は軽減する対策(実行可能な範囲で)の検討、関係する時間軸、及び被用者が利用できる選択肢も含まれます。
  • レイオフの影響を軽減するための手順を踏みます。重大な変更に関する協議に関連した問題、雇用終了を回避又は最小にするための措置、及び雇用終了の影響を軽減するための措置の詳細については、第166号勧告を参照してください。
  • 雇用終了慣行が公正で、国の雇用法制、労働協約、その他雇用終了、余剰人員の解雇、及びレイオフについて規定した関連の労使の文書を遵守していることを確認します。
  • 苦情や紛争を解決する仕組みがあることを確認します。疑問や苦情が生じた場合、個々の被用者又はその団体はこれを申し立て、有効な方法で偏見や報復のおそれなしに処理される必要があります[4]。
また、終了が必要なときに労働者の権利を守る追加の手引きには以下のものがあります。
  • 組織がレイオフする被用者をどのように選択するのかについて客観的判定基準を事前に定め、これを記録します。
  • 選択基準は適切に重みづけし、使用者の事業上の必要性に合わせるべきです。
  • 選択基準を客観的に評価できることが望まれます(技能、資格、訓練経験など)。
  • 選択基準は、年齢、性、妊娠、職歴若しくは家族的責任、人種、婚姻、障害、宗教、政治的意見、国家的出身若しくは社会的出身、疾病による一時的休業、産休、労働組合への加入、又はその活動に参加することなど、無効で不当な根拠に基づく差別的なものであってはなりません[5]。
  • 労働者のレイオフに関する決定の伝達は慎重な配慮のもとに行い、解雇する労働者に直接連絡します。

[1]第158号条約第13条参照
[2]これらのイニシアチブに関する詳細な議論と事例については、「Socially Sensitive Enterprise Restructuring in Asia: Country Context and Examples」Rogovsky N and Schuler RS、ILO、ジュネーブ(2007年)、「Restructuring For Corporate Success: A Socially Sensitive Approach」 Rogovsky, N. (ed)、ILO、ジュネーブ(2005年)参照
[3]関連情報には、終了の理由、影響を受けるおそれのある労働者の数及び種類並びに終了が実施される予定期間が含まれる。1982年の雇用終了条約(第158号)第3部、第13条
[4]多国籍企業宣言第66項及び第68項
[5]1982年の雇用終了条約(第158号)第5条


短期契約

Q10:長期間にわたる労働契約締結に伴う社会給付の負担を回避するために、短期の労働契約更新を長期にわたって繰り返す手法に対するILOの指針はありますか。

A10:多国籍企業宣言では企業に対し、国家の法令に従い、地域の慣行を十分考慮し、関係のある国際基準を尊重することを奨励しています[1]。

多国籍企業宣言は、「企業は積極的な雇用計画を通じて、各企業が雇用する労働者に対して安定した雇用を与えるよう努めるべきであり、また雇用安定及び社会保障に関する自由な交渉の結果負担した義務を遵守すべきである」と定めています。また「雇用の安定を促進するための主導的役割を果たすよう努めるべきである」とも述べています[2]。

さらに多国籍企業宣言では、「企業活動は、活動を行う国の開発の優先度、社会的目標及び国家構造と調和を保つべき」と規定しています[3]。

[1]多国籍企業宣言第8項
[2]多国籍企業宣言第33項
[3]多国籍企業宣言第11項


Q11:私は多国籍企業で働いているのですが、会社から早期退職を迫られています。アドバイスをお願いします。

A11:自由意思による自発的早期退職は国際労働基準に抵触しません(1952年の社会保障(最低基準)条約(第102号)第5部、1967年の障害、老齢、及び遺族給付条約(第128号)参照)。労働者の意思に反した早期退職(年金額の減少につながる可能性あり)を強制することは、これらの文書の規定に反します。できる限り、退職が自発的なものであることを確認する措置をとるべきです(1980年の高齢労働者勧告(第162号)第21項)。また恣意的な解雇手続は回避すべきです(多国籍企業宣言第35項及び1963年の雇用終了勧告(第119号)参照)。

Q12:ある会社では従業員が辞めるときに法的要件を上回る事前の予告を行うよう求める方針を定めています。従業員が方針に規定された期間より早く辞めた場合、会社は従業員の賃金から一定の割合を差し引きます。試用期間中に会社側から雇用終了された従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。試用期間中に自らの意思でやめる従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。これは問題ありませんか。

A12:予告の要件は、辞めたいと思ったときに辞める労働者の権利と、代わりの労働者を見つけるための合理的時間を確保する使用者の権利のバランスをとるものです。予告の要件は国内の法令で定められ、理想的には労働者団体及び使用者団体との協議により、相反するこれらの権利の間で適切なバランスをとるのは政府の役割です。労働者と企業はいずれも国内の法令に定められた予告規定を守らなければなりません。労働者が法的に定められた予告の最低期間を守らない場合の罰則は国内の法令に基づいて決めるべきであり、会社の方針もこれを尊重する必要があります。

試用期間とは、使用者と労働者のいずれか、又は双方に対し、労働者が仕事に適しているか、また仕事が労働者に適しているかどうかを判定するための期間を認めるものです。いずれかの側が仕事と労働者が合わないと判断した場合、この期間中であれば予告を行ったうえで随時労働関係を停止する権利があり、この権利を行使することにより罰則を課すことはできません。使用者がこの権利を行使するときに労働者が得た賃金の一部を差し引くことは、強制労働にはなりません(例:1930年の強制労働条約(第29号)、1957年の強制労働廃止条約(第105号))。しかし1949年の賃金保護条約(第95号)及び勧告(第85号)における賃金保護に関する規定には反しています。使用者が雇用関係を終了させようとしているかどうかに関わらず、労働者は働いた日数について報酬を得る権利があります。雇用関係を終了させる権利を行使した労働者に対し、これを阻止する、又は罰するため賃金を差し止めることは強制的であり、試用期間の目的に反します。

Q13:私はハラスメントにより解雇されました。パートタイム及びフルタイムの従業員の解雇はどのような手続であるべきですか。

A13:企業の経営状態に関係しない事由による雇用終了の場合、解雇が認められる唯一の根拠は個人の能力又は行為です。

労働者は事前に書面による警告を受けていない限り、繰り返し行われた場合にのみ国内の法令又は慣行のもとで終了を正当なものとするような不正行為により解雇されてはなりません。ハラスメントやモラルハラスメントは通常、事前警告を必要としないほど十分に深刻な問題とみなされますが、国内法の規定を確認すべきです。

被用者は雇用終了前に自己についての申立てに対し自己を弁護する権利を認められますが、使用者がその機会を与えることが合理的には期待し得ない場合は、この限りではありません。労働者は自己を弁護するときに他の者の援助を受ける権利を有すべきです。

労働者は、権限のある機関により解雇が事前に承認されている場合を除き、裁判所や仲裁委員会などの中立的な機関に提訴する権利を有します。

妥当な終了理由の存在を挙証する責任は使用者にあります。その代わりに、又はそれに加えて、中立的な機関には、国内の法令及び慣行に基づいて当事者により提供された証拠に基づいて決定を行う権限が与えられます。

Q14:会社は妊娠した女性をいつでも解雇することができますか。妊娠した女性が雇用されている国の国民でない場合、その女性はどのような医療給付を受けることができますか。

A14:労働者は妊娠中、産休中、又は哺育中に解雇されべきではありません。2000年の母性保護条約(第183号)第8条をご参照ください。ただし妊娠出産と関係のない理由があり、立証責任などの点で差別的解雇に対する有効な保護手段がある場合には、例外が認められることがあります。1919年の旧母性保護条約(第3号)及び1952年の母性保護条約(改正)(第103号)のもとでの解雇禁止は産休中に限られていましたが、これらの法律は産休期間中にはいかなる理由による解雇も認めていませんでした。

この保護は外国人を含むすべての女性に適用されます(第3号条約第2条及び第183号条約第1条参照)。

女性が受けられる医療給付は国内法令及び国内慣行によって異なりますが、出産前、出産、及び出産後の医療、また必要に応じて入院給付を含む必要があります(第183号条約第6条第7項参照。2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)にも、社会的保護の土台には母性に関する保健と基本収入の保障が含まれると定められています。)

Q15:1919年の母性保護条約(第3号)における妊娠した女性の保護について説明をお願いします。

A15:女性労働者を、妊娠中、産休中、又は哺育中に解雇することはできません。2000年の母性保護条約(第183号)第8条をご参照ください。しかしながら、妊娠出産と関係のない理由があり、立証責任などの点で差別的解雇に対する有効な保護手段がある場合には、例外が認められることがあります。前述の1919年の母性保護条約(第3号)及び1952年の母性保護条約(改正)(第103号)のもとでの解雇禁止は産休中に限られていましたが、これらの法律は産休期間中にはいかなる理由による解雇も認めていませんでした。

保護はその国の国民でない人を含め、すべての女性に適用されなければなりません(1919年母性保護条約(第3号)第2条及び2000年母性保護条約(第183号)第1条)。

女性が受ける権利のある医療は国内法令及び国内慣行により定められますが、妊娠中、出産、及び出産後の医療、また必要に応じて入院支援も含む必要があります(2000年の母性保護条約(第183号)第6条第7項参照。2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)においても、社会保障の基本的な要素には、母性に関する保健と基本収入の保障が含まれることが示されています。)


民間職業仲介事業所


Q16:私の会社は一時的な人手不足を補うため現地の民間職業仲介事業所に頼ることが頻繁にあります。こうした労働者の権利を保護するための留意点を教えてください。

A16:多国籍企業宣言には、「企業は、積極的な雇用計画を通じて、各企業が雇用する労働者に対して安定した雇用を与えるよう努めるべきであり、また、雇用安定及び社会保障に関する自由な交渉の結果負担した義務を遵守すべきである」と定められています。また「雇用の安定を促進するための主導的役割を果たすよう努めるべきである」とも述べられています。

民間職業仲介事業所と契約し、会社の一時的業務に就く労働者の権利保護規定は1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)及び民間職業事業所勧告(第188号)に定められています。以下に現地の民間職業仲介事業所と契約する前に確認すべきこれらの文書に含まれる原則を挙げます。いくつかの規定、例えば労働安全衛生や労働者の不当な取扱い防止等は、使用者企業による直接の監督の対象でもあります。

労働者は民間職業事業所との間で、雇用条件を明記した書面による契約を有すべきであり、職務を実際に開始する前に雇用条件を知らされるべきです[1]。

国内法令が特定の種類の労働者やサービスについて認めている場合を除き、労働者は直接又は間接を問わず、手数料又は経費の支払義務を負いません[2]。

労働者は人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的系統若しくは社会的出身による差別又は年齢、障害等国内法及び国内慣行の対象とされている他の形態による差別を受けてはなりません[3]。しかし、職業仲介事業所にはアファーマティブ・アクション計画を通じて雇用における均等を促進することが奨励されています[4]。

労働者は国内法に定められた民間職業仲介事業所の責任について知らされる必要があります。

労働者は以下に関連して適切に保護される必要があります。
  • 結社の自由
  • 団体交渉
  • 最低賃金、労働時間その他の労働条件
  • 法令上の社会保障給付
  • 訓練を受ける機会
  • 職業上の安全及び健康
  • 職業上の災害又は疾病の場合における補償
  • 支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護
  • 母性保護及び母性給付並びに父母であることに対する保護及び給付[5]
労働者は容認し難い危害や危険にさらされたり、何らかの種類の不当な取扱い若しくは差別的な待遇を受けたりしてはなりません[6]。

民間職業仲介事業所に雇用される労働者は、個人情報とプライバシー保護の権利があります。会社が維持するデータは、関係する労働者の資格及び職業経験に関連する事項並びに他の直接関連する情報に限定されます[7]。

移民労働者は不当な取扱い防止のため十分な保護を提供される必要があります[8]。移民労働者は、可能な限りこれらの者の母国語又はこれの者が精通している言語で、紹介する職の性質及び適用される雇用条件を知らされなければなりません[9]。

児童労働は利用してはなりません[10]。

臨時雇いの労働者をストライキ中の労働者を代替するために使用可能にすることはできません[11]。

労働者が使用者企業からの正規雇用の申し出を受け入れることを妨げることはできません[12]。

上記の指針は国際労働基準に基づいていますが、関連の国内労働基準を参照することが推奨されます。また国内の使用者団体と労働者団体も、差別禁止法令や慣行に関する国内法令、労働協約等に関する良い情報源となります。


[1]第188号勧告第5項
[2]第181号条約第7条
[3]第181号条約第5条
[4]第188号勧告第10項
[5]第181号条約第11条及び第12条
[6]第188号勧告第8項(a)
[7]第181号条約第6条
[8]第181号条約第8条
[9]第188号勧告第8項(b)
[10]第181号条約第9条
[11]第188号勧告第6項
[12]第188号勧告第15項