ILOビジネスのためのヘルプデスク:強制労働に関するQ&A

Q1:強制労働とは何ですか。

強制労働撤廃への企業の貢献

Q2:強制労働を防止するため、企業には何ができますか。


囚役の利用

Q3:囚役はどのような場合に利用できますか。

労働者の閉じ込め

Q4:盗難を防止するため、夜間に労働者を社内に閉じ込めることは許されますか。それとも、これは強制労働に当たりますか。

労働者の旅券取り上げ

Q5:企業が移民労働者の旅券を工場内で取り上げることは許されますか。
Q6:入国管理局が長期にわたり、移民労働者の旅券を差し押さえている場合、当社のサプライヤーはどうすべきでしょうか。
Q7:自由貿易地域で、ある使用者が労働者の旅券を保管しています。労働者は会社の幹部職員の同伴がないと旅券にアクセスできない状態で、使用者によると、労働者の管理責任は会社にあり、労働者は使用者の許可なく出国できないとのことでした。このような慣行は国際労働基準に適合していますか。
Q8:あるサプライヤーの労働者は、各自の旅券を24時間利用できますが、査証延長等の目的がある場合には、幹部職員の付き添いを受けなければなりません。このような状況にはどう対応すべきですか。
Q9:労働者の代表(労組職員など)が労働者の旅券(又は、移動の自由に必要なその他の身分証明書)を保有することが容認される条件はありますか。労働者が権利放棄証書に署名するなど、面談を通じ、自らの身分証明書類を他者に保有してもらうことを「望んだ」場合には、どうなりますか。
Q10:帰国を希望する移民労働者が、同人に係る年次雇用税を支払った使用者を守るため、現金を預託するよう要求されていますが、このような状況にはどう対応すべきでしょうか。
Q11:職業仲介事業所に仲介料(労働者は自宅を抵当に入れ、親類や隣人、さらには銀行から借金をしています)に加え、現金を預託し、1年後に払い戻しを受けるようなケースは、強制労働に当たりますか。
Q12:どのような条件のもとであれば労働者に制服の保証金を要求することができますか。
Q13:ある会社では従業員が辞めるときに法的要件を上回る事前の予告を行うよう求める方針を定めています。そして、従業員が方針に規定された期間より早く辞めた場合、会社は従業員の賃金から一定の割合を差し引きます。試用期間中に会社側から雇用を終了された従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。また、試用期間中に自らの意思でやめる従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。これは問題ありませんか。

労働者の最低生活条件

Q14:労働者が宿舎と食料しか与えられない場合、強制労働とみなされますか。

義務的な超過勤務

Q15:義務的な超過勤務は強制労働に当たりますか。

Q16:工場のルールや規則に、義務的な超過勤務の方針が盛り込まれている場合、これはどのような状況で強制労働とみなされ、どのような状況で強制労働とみなされないことになりますか。

搾取

Q17:ILOは搾取をどのように定義していますか。また、それにはどのような基準がありますか。

契約

Q18:契約を結ばないまま働いているか、契約を結んでいても、使われている言語が読めないか、理解できないために、契約内容を理解しないまま働いている従業員がいます。この状況はどの程度、強制労働に関するILO条約違反となりえますか。強制労働を避けるために、企業は労働者が理解できる言語に契約を翻訳する義務を負いますか。

洋上での作業

Q19:ある従業員は洋上(油田採掘設備など)で働いています。その労働契約は、洋上滞在期間に言及しながら、早期離職の可能性に触れていません。この労働者は離職を望んでいますが、物理的に持ち場を離れられない状況にあります。処罰の脅威はなく、同人は自発的に契約を受け入れてはいますが、移動が制約されていることは明らかです。これはどの程度、強制労働に関するILO条約違反に当たる可能性がありますか。
Q20:ある工場は、無許可で休暇を取ったり、最低品質基準を満たしていなかったりする労働者に罰金を科しています。罰金に関する方針はどのような場合、強制労働条約に違反することになりますか。
Q21:当社の拠点や傘下企業の中には、当社の福利厚生制度の一環として、従業員に貸付を行っているものがあります。この好事例に負の側面が生じないよう、当社としては、奴隷労働や移動の自由の阻害とみなされかねない事件が生じたり、分割払いによって日給が最低賃金を割り込んだりすることがないようにするための方針の策定を図っているところです。
Q22:人身取引の防止に関し、何か企業に提案できることはありますか。
Q23:職業技術訓練に関する返済又は天引制度に関し、何か情報がありますか。返済額として合理的な金額はどのくらいですか。また、訓練や返済のプロセス又は料金が過剰かどうかを判断するうえで、情報を集めるべき主要指標には、どのようなものがありますか。


回答:

Q1:強制労働とは何ですか。

A1:強制労働とは、ある者が処罰の脅威の下に強要され、かつ、右の者が自らの自由意思で申し出たものではない一切の労務を指します[1]。

強制労働は、自由意思で働き、自らの仕事を自由に選ぶという基本的人権の侵害に当たります。

強制労働は、2つの要素によって特徴づけられます。

処罰の脅威。この場合の処罰は、逮捕や投獄といった刑罰であったり、賃金の支払拒否や労働者の自由な移動の禁止といった権利又は特権の剥奪であったりします。報復の脅威は、暴力や身体的義務、さらには殺害の脅しを含む最もあからさまなものから、違法労働者を当局へ告発するという脅しなど、より狡猾で、しばしば心理的なものに至るまで、様々な形態で現れることがあります。


非自発的に行われる労働又は役務。作業が自発的に遂行されているか否かの判断には、外部からの間接的な圧力の考慮も絡んでくることが多くあります。例えば、借金の返済として労働者の給与の一部が天引きされていることや、賃金や報酬が支給されていないこと、労働者の身分証明書が取り上げられていることなどです。すべての労働関係は、契約当事者双方の同意に基づくべきであるという原則は、国内法又は労働協約に基づき、合理的な予告を行うことを条件に、双方の当事者がいつでも労働関係を離れられることを示唆します。労働者が処罰を受けるおそれなく、その同意を撤回することができなければ、当該作業は、労働者が働くのを止める権利を否定された時点から、強制労働とみなされかねません。


[1]1930年の強制労働条約(第29号)第2条

強制労働撤廃への企業の貢献

Q2:強制労働を防止するため、企業には何ができますか。

A2:企業は強制労働の撤廃に重要な役割を果たすことができます。具体的に、企業は以下の対策を講じることができます。

労働者が旅券、身分証明書及び渡航書類を含む証明書類を自由に利用できるようにすること。

明確かつ透明な企業方針で、強制労働と人身取引を防止するために講じる措置を定め、この方針が自社の商品及びサプライチェーンに関与する全企業に適用されることを明確にすること。

特に国外から契約労働者を供給する仲介事業所を注意深く監視するとともに、その選択に応じて自由に離職することを妨げるために労働者の証明書類を取り上げたことが確認されている事業所をブラックリストに載せること。

強制労働をいかにして防止又は撤廃すべきかに関するさらに詳しい指針については「Combating forced labour: A handbook for employers and business(強制労働対策:使用者及び企業向けハンドブック)(英語)」ILO、ジュネーブ(2015年)をご覧ください。

囚役の利用

Q3:囚役はどのような場合に利用できますか。

A3:囚役の利用については、1930年の強制労働条約(第29号)で取り扱われています。

強制労働とは、処罰の脅威の下で、非自発的に行われる労働を指します。

自由な同意という要件は、囚人にも当てはまります。囚役を利用する企業は、囚人が提示された仕事を断ったとしても、特権の喪失や、その減刑を危うくしかねない不利な素行判断などの処罰の脅威がないようにすべきです。

囚人が自由に作業に同意しているか否かを示す指標として、雇用条件が自由な労働関係とほぼ同一であるか否かという点が挙げられます。指標には、以下が挙げられます。

各労働者が、企業から標準的同意書の提供を受け、これに署名することで、作業への同意を示しているか。この同意書に、賃金と労働時間が記載されているか。

企業が提示する労働条件は、行刑施設外の労働条件とほぼ同じレベルか。すなわち、賃金は、生産性の度合いや、企業が行刑施設内での労働者を警備監督するために負担する費用があれば、かかる費用などの要因を考慮したうえで、該当する業種又は職種で類似の技能及び経験を持つ自由労働者と同一の金額となっているか。

賃金は直接、労働者に支払われているか。労働者は勤務時間数、賃金稼得額、及び、法律により食費と宿泊費に係る天引きが認められている場合には、かかる控除額を示す明確で詳細な給与明細書を受け取っているか。

1日の労働時間数は法律に従っているか。

安全衛生対策についても、法律を遵守しているか。

労働者は社会保障制度による労災と医療保険の対象となっているか。

労働者は新たな技能の習得や、管理下の環境で共同作業を行う機会により、チームワークを身につけるなどの利益を得ているか。

労働者が釈放後、同種の仕事を続けられる可能性があるか。

労働者が、合理的な予告要件を守りさえすれば、いつでもその同意を撤回できるか。

就労の同意が自由意思によるものか否かを検討する際には、これらの要因を全体として考慮すべきです。また作業に取り掛からせる前に、各々の囚人から正式の、できれば書面による同意を取り付けるべきです。

これら規定の実際的適用は難しく、虐待が生じていないことを検証する必要が生じることもあります。

労働者の閉じ込め

Q4:盗難を防止するため、夜間に労働者を社内に閉じ込めることは許されますか。それとも、これは強制労働に当たりますか。

A4:このような状況は、該当する者の移動を制限するものであり、その弱い立場につけこむことと関連してきます。その他の強制手段(脅しや実力行使など)を伴う場合、この状況は間違いなく、自発的な申し出又は同意を排除するものと解釈されかねません。強制が伴わない場合でも、労働者を社内に閉じ込めるべきではありません。ILOは職場での閉じ込めについて断固として容認できない姿勢をとることを主張しています[1]。

さらに、労働者を工場内に閉じ込めることは明らかに労働安全衛生の原則に反しています。事故が発生すれば、人身傷害を理由とする民事責任が発生する可能性があります。また労働者を工場に閉じ込めれば国内法上、不法監禁として刑事犯罪又は民事不法行為に当たるおそれもあります。

企業がその資産を保護するための措置を講じることは正当ですが、別の手段を模索すべきです。

国内の労使団体から、効果的な代替手段について有用な提言を得られることもあります。また、強制労働問題全般に関しても、役に立つ情報を得られるかもしれません。

[1]「Combating forced labour: A handbook for employers and business」ILO、ジュネーブ(2015年)第6章8頁

労働者の旅券取り上げ

Q5:企業が移民労働者の旅券を工場内で取り上げることは許されますか。

A5:強制労働とは、ある者が処罰の脅威の下に強要され、かつ、右の者が自らの自由意思で申し出たものではない一切の労務を指します[1]。

強制労働は、自由意思で働き、自らの仕事を自由に選ぶという基本的人権の侵害に当たります。

強制労働は、処罰の脅威と非自発的な労働又は役務という、2つの要素によって特徴づけられます。

多くの強制労働状態では強制、すなわち自由に同意していない人々に労働を強いることが重要な要素となります。移民労働者は、その旅券や身分証明書を取り上げられることにより、労働を強制されている可能性があります。但し、使用者は、安全な保管を目的に労働者の身分証明書を預かっていることもあります。このような場合、労働者は常時、保管された証明書類を利用できなければならず、労働者が当該企業を離れる能力を制限するものであってはなりません。

[1]1930年の強制労働条約(第29号)第2条

Q6:入国管理局が長期にわたり、移民労働者の旅券を差し押さえている場合、当社のサプライヤーはどうすべきでしょうか。

A6:移民労働者の身分証明書の差し押さえはそれ自体が、強制労働に当たるわけではありません。とはいえ、労働者から旅券や身分証明書を取り上げれば、移動の自由は制約を受けるため、強制労働の被害者となる危険性は高まります。よって、移民労働者の旅券その他身分証明書の没収は、使用者によるものであれ、人材派遣会社によるものであれ、政府によるものであれ、虐待的慣行に当たるとみなされます。

サプライヤーに対しては、労働者に代わり、旅券の返還を請求するよう促してみるのも一案です。政府がこの請求を拒否した場合、サプライヤーは政府に対して懸念を提起するため、国内労使団体からの支援を要請することもできるでしょう。

Q7:自由貿易地域で、ある使用者が労働者の旅券を保管しています。労働者は会社の幹部職員の同伴がないと旅券にアクセスできない状態で、使用者によると、労働者の管理責任は会社にあり、労働者は使用者の許可なく出国できないとのことでした。このような慣行は国際労働基準に適合していますか。

A7:移民労働者は使用者の許可なく出国する権利を有するべきです[1]。

基本原則として、証明書類は移民労働者が保持すべきです。旅券又は渡航書類を使用者が保管することは、例外的な状況において、安全な保管を理由とする場合にのみ可能です。しかも、使用者によるこのような保管は、労働者の真正な要請と同意がある場合にのみ可能です。

使用者が労働者の身分証明書を保有している場合、労働者はいつでも、これを利用できなければならず、労働者が当該企業を離れる能力は制約を受けるべきではありません。旅券を必要とする移民労働者に幹部職員の付き添いが必要であるという事実は、労働者が事実上、自らの旅券を利用できる可能性に関する疑問を提起します。移民労働者は査証延長だけでなく、どのような理由でも、自身の旅券を利用できるべきです。

ILOは好事例として、移民労働者のみが開閉できる私用ロッカーの設置を促進しています。ILOのベターワークプログラムでは、多くの使用者がすでに、そのようなロッカーを設置し、大きな成果を上げています。

当該国の国内使用者団体も、さらに情報を提供できるかもしれません。国際使用者連盟(IOE)は、各国使用者団体の完全版のリストを提供しています。

国際労働組合総連合(ITUC)も、多くの国に移民労働者のネットワークを擁しているため、さらに詳しい情報を提供できる可能性があります。

[1] 1975年の移民労働者(補足規定)条約(第143号)前文は、以下を規定している。「世界人権宣言並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約に規定されているように、すべて人は、(中略)いずれの国をも立ち去(中略)る権利を有する」

Q8:あるサプライヤーの労働者は、各自の旅券を24時間利用できますが、査証延長等の目的がある場合には、幹部職員の付き添いを受けなければなりません。このような状況にはどう対応すべきですか。

A8:移民労働者には、使用者の許可なく出国する権利があるべきです。基本原則として、証明書類は移民労働者が保持すべきです。

旅券又は渡航書類を使用者が保管することは、例外的な状況において、安全な保管を理由とする場合にのみ可能です。しかも、使用者によるこのような保管は、労働者の真正な要請と同意がある場合にのみ可能です。

使用者が労働者の身分証明書を保有している場合、労働者はいつでも、これを利用できなければならず、労働者が当該企業を離れる能力は制約を受けるべきではありません。旅券を必要とする移民労働者に幹部職員の付き添いが必要であるという事実は、労働者が事実上、自らの旅券を利用できる可能性に関する疑問を提起します。移民労働者は査証延長だけでなく、どのような理由でも、自身の旅券を利用できるべきです。

Q9:労働者の代表(労組職員など)が労働者の旅券(又は、移動の自由に必要なその他の身分証明書)を保有することが容認される条件はありますか。労働者が権利放棄証書に署名するなど、面談を通じ、自らの身分証明書類を他者に保有してもらうことを「望んだ」場合には、どうなりますか。

A9:労働者は、自身の身分証明書をいつでも利用できなければならず、その中には、労働者の代表が身分証明書類を保有する場合も含まれます。代わりとして、ロッカーなど、各労働者が書類を保管できる安全な場所の提供を考えてみてはいかがでしょうか。

Q10:帰国を希望する移民労働者が、同人に係る年次雇用税を支払った使用者を守るため、現金を預託するよう要求されていますが、このような状況にはどう対応すべきでしょうか。

A10:労働が自発的に行われているかどうかの決定には、外部からの間接的な圧力の検討が必要となることも多くあります。労働者の給与の一部を預託金として留保することは、このような圧力に当たるでしょう。

使用者が外国人労働者に係る雇用税を支払ったとしても、契約の未履行部分に帰属する雇用税の弁済を要求することは認めるべきでありません。募集採用に係る料金又は費用は、直接か間接か、全部か一部かにかかわらず、労働者から徴収すべきではないからです。1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)第7条第1項をご覧ください。

Q11:職業仲介事業所に仲介料(労働者は自宅を抵当に入れ、親類や隣人、さらには銀行から借金をしています)に加え、現金を預託し、1年後に払い戻しを受けるようなケースは、強制労働に当たりますか。

A11:多くの状況において、強制労働の鍵を握る要素は強制、すなわち、自由意思でない労働を強いることです。移民労働者は債務その他、高額の仲介料又は輸送料の徴収に起因する束縛によって、強制を受けることがあります。預託金の要求も、労働者の滞在を強制する役割を果たします。いずれの慣行も、強制労働の証拠とみなされる可能性があります。

Q12:どのような条件のもとであれば労働者に制服の保証金を要求することができますか。

A12:一般に賃金の未払と不払は、多額の保証金を含め、労働者の希望に応じて職を辞する権利に対する制約となります。しかし労働者が保証金返金の条件について知らされ、その条件を満たせば実際に保証金が返金されるのであれば、妥当な金額の保証金は強制労働に該当しません。制服に対する保証金については、辞める場合には制服を返却したときに保証金が返金されることを労働者が知らされる必要があります。その他の条件、例えば制服を合理的な状態で返却することなどがある場合にはそれを明確に示し、労働者が辞めたいと思ったときに引き留めることがない形で適用される必要があります。労働者が辞めるときに返金されない保証金は保証金ではなく、労働者が自分の制服について支払を義務付けられる要件です。労働者の賃金からのそのような控除は賃金保護の観点で問題です。使用者により供給される工具、材料又は装具に関する賃金からの控除を次の場合に制限するための、適当の措置を講じなければならない、とされています。

(a)    関係ある職業又は業務において慣習として承認される場合
(b)    労働協約又は仲裁裁定により定められる場合
(c)    国内の法令又は規則により承認された手続きにより別段に許可されている場合。これは単に会社の方針のみでは不十分です。

上述の条件が満たされれば、労働者が制服について支払を求められることは容認可能ですが、制服が自分の所有物であることを労働者に明確に伝える必要があります。

Q13:ある会社では従業員が辞めるときに法的要件を上回る事前の予告を行うよう求める方針を定めています。そして、従業員が方針に規定された期間より早く辞めた場合、会社は従業員の賃金から一定の割合を差し引きます。試用期間中に会社側から雇用を終了された従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。また、試用期間中に自らの意思でやめる従業員は、働いた日数に対する賃金を支払われません。これは問題ありませんか。

A13:予告の要件は、辞めたいと思ったときに辞める労働者の権利と、代わりの労働者を見つけるための合理的期間を確保する使用者の権利のバランスをとるものです。予告の要件は国内の法令で定められます。理想的に言えば労働者団体及び使用者団体と協議したうえで、相反するこれらの権利の間で適切なバランスをとるのは政府の役割だからです。労働者と企業はいずれも国内の法令に定められた予告規定を守らなければなりません。労働者が法的に定められた予告の最低期間を守らない場合の罰則は国内の法令に基づいて決めるべきであり、会社の方針はこれを尊重する必要があります。

試用期間とは、使用者と労働者のいずれか、又は双方に対し、労働者が当該業務に適しているか、また当該業務が労働者に適しているかどうかを判定するための期間を認めるものです。いずれかの側が仕事と労働者が合わないと判断した場合、この期間中であれば随時労働関係を停止することができますが、予告は行う必要があり、この権利を行使することに伴い罰則を課すことはできません。使用者がこの権利を行使するときに労働者が得た賃金を差し引くことは、強制労働には当たりません(例:強制労働条約(第29号)強制労働廃止条約(第105号))。しかし1949年賃金保護条約(第95号)及び勧告(第85号)における賃金保護に関する規定には反しています。使用者が雇用関係を終了させようとしているかどうかに関わらず、労働者は働いた日数について報酬を得る権利があります。雇用関係を終了させる権利を行使した労働者に対し、これを阻止する、又は罰するため賃金を差し止めることは強制的であり、試用期間の目的に反します。

労働者の最低生活条件

Q14:労働者が宿舎と食料しか与えられない場合、強制労働とみなされますか。

A14:強制労働とは、処罰の脅威の下で非自発的に行われる労働を指します。企業は強制も脅迫も存在しないこと、現物給与が債務による束縛に起因するものではないこと、及び、該当する労働者が自由に離職できることを検証すべきです。

商品又はサービスによる現物給与により、労働者の使用者に対する従属状態を作り出すべきではありません [1]。虐待の危険に対処するための保護措置と法的保護が必要です。多くの国の労働法は、現物給与にできる賃金の割合に上限を定めていますが、これは通常20%から40%となっています。現物給与の割合が50%に上れば、労働者とその家族の生存に必要な現金報酬が不当に引き下げられることになるため、妥当とは言えない可能性があります[2]。

現物給与のみによる賃金支払いがそれ自体、強制労働に当たるわけではありませんが、このような支払いを行えば、労働者の依存度と脆弱性が高まるため、これら労働者が最終的に強制労働状態に陥ってしまうおそれがあります。

[1]「Combating Forced Labour: A handbook for employers and business」ILO、ジュネーブ(2015年)第3章3頁
[2]1949年の賃金保護条約(第95号)、第95号条約及び1949年の賃金保護勧告(第85号)に関する報告の総合調査第117項

義務的な超過勤務

Q15:義務的な超過勤務は強制労働に当たりますか。

A15:超過勤務の義務付けは、国内法制又は労働協約により認められている限度内であれば強制労働にはなりません。この限度を超えた場合は、超過勤務を行う義務が強制労働に対する保護に抵触する状況があるか検査することが望ましいといえます[1]。

労働者が理論上、通常の勤務時間を上回る労働を拒むことができたとしても、その脆弱性から事実上、最低限の賃金を稼いだり、職を維持したり、あるいはその両方の目的で、超過勤務をするしかないという状況もあり得ます。処罰や解雇、最低水準に満たない賃金支払の脅威の下で、労働者の脆弱性に付け込むことにより、労務が強制される場合、このような搾取は単なる劣悪な雇用条件の域を越え、処罰の脅威による労働の強制に当たり、労働者の保護が必要になります。

[1]1930年の強制労働条約(第29号)及び1957年の強制労働廃止条約(第105号)に関する総合調査(2007年)第132項

Q16:工場のルールや規則に、義務的な超過勤務の方針が盛り込まれている場合、これはどのような状況で強制労働とみなされ、どのような状況で強制労働とみなされないことになりますか。

A16:工場の超過勤務方針は、国内法制や該当する労働協約を遵守すべきです。超過勤務の義務は、国内法によって認められるか、該当する労働協約によって定められる限度内に収まっていれば、強制労働とはみなされません。超過勤務が法律によって認められる1週間又は1か月の限度を超過し、かつ、処罰の脅威によって強制的になる場合、かかる超過勤務は理由にかかわらず、強制労働となります。

超過勤務の拒否に対する罰金の脅威は事実上、労働者が法定限度を超える超過勤務を拒否するのを不可能にするため、これも懸念すべきです。法定限度を上回る超過勤務を行わないことについて罰金を課すという企業方針を、労働者が脅威のようなものとして認識する場合、これは強制労働に当たる可能性があります。しかも、ILO条約勧告適用専門家委員会は、場合により、脅威がさらに巧妙となりかねないことも指摘しています。従業員は解雇を恐れるあまり、国内法で認められる限度を上回る超過勤務を行うこともあれば、それ以外に最低賃金を得られる方法がない(例えば、報酬が生産性目標の達成に基づいている場合)という理由から、法定限度を越えて働かざるを得ないと感じることもあります。こうした場合、労働者が理論上、勤務を拒むことができたとしても、その脆弱性から、最低限の賃金を稼いだり、職を維持したり、その両方を可能にしたりするために、超過勤務をするしかない可能性もあります。そうなれば、この状況は、処罰の脅威の下に労働を強制しているのも同然となり、強制労働とみなしえるといえます。

搾取

Q17:ILOは搾取をどのように定義していますか。また、それにはどのような基準がありますか。

A17:ILOは、潜在的な被害者が、犯罪行為との関連(人身取引や営利目的の性的搾取)、その外部者としての地位(先住民)、その外国人としての地位(移民労働者)、又は、自らを特に弱い立場に置く雇用状況により、特に社会的弱者となっている状況に限り、「搾取」という言葉を用いています。

人身取引に関する国際文書との関連を見ると、国連は搾取を次のように定義しています。「搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」[1]

ILO条約勧告適用専門家委員会は、パレルモ議定書と1930年の強制労働条約(第29号)を関連づける適切な方法として、この定義に言及しています[2]。専門家委員会はまた、同じ報告書で、次のように述べています。

「一定の事例につき、委員会は、超過勤務を行う義務と、強制労働の義務に対する保護との間の関連性を調査することが適切と考えた。解雇の脅しを受けたか、最低賃金を稼げるよう、生産性目標を達成するために通常の勤務時間を越えて働くことを強いられる労働者の弱みに付け込むことは、処罰の脅威の下に課された労働を拒否する労働者の自由と権利を制限することになる。委員会は一定の状況において、超過勤務の義務が第29号(強制労働)条約違反に当たると考えている。」[3]

専門家委員会はさらに、次のように指摘しています。「1949年の移民労働者(改正)条約(第97号)には、移民労働者を援助しかつ特に彼等に正確な情報を提供するため無料の施設を維持することをねらいとする規定が盛り込まれている。また、条約を実施する各加盟国に、出移民に関する誤った宣伝に対するすべての適当な措置を執るよう要求している(第2条及び第3条)。これらの規定は文脈に応じ、搾取を目的とする人身取引につながりかねない状況を防止するものとみなすことができる。」[4]

ILO事務局長が2005年のグローバル・レポート「強制労働に反対する世界的な同盟」で所見を述べているとおり、パレルモ議定書と強制労働条約との関連性は、概念上の課題と同時に、法執行上の課題も投げかけています。
「これらは国際法に、搾取(労働の搾取と性的搾取に大別できる)という概念を持ち込むものだが、これに関する判例は数が限られている。締約国には、人身取引と搾取という、より幅広い概念を導入するための法律の採択又は改正が要求されているが、一部の国は現在までに、女性と子供の性的搾取のみを対象とする人身取引対策法を採択している。」

事務局長の強制労働に関する2009年グローバル・レポート「強制のコスト(英語)」では、次のような所見が述べられています。「最近は「搾取」という概念が注目されていることで、これを具体的な犯罪としてどう捕捉できるか、この犯罪の重大性をどのように判定すべきか、及びこれをいかに処罰できるかに関する議論が盛り上がりを見せている。また、経験から得られた教訓によると、強制された搾取と、強制されない搾取とを隔てる境界線はきわめて細い。ILOによる強制労働の定義は、労働又は役務関係の非自発性を大いに強調しているが、パレルモ議定書とその後の政策論議では、雇用関係に至る過程と雇用期間中において、様々な形態の手口を用い、当初の合意内容を骨抜きにしえる手段が強調されている。」[5]

[1]国連・国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(パレルモ議定書)第3条
[2]条約勧告適用専門家委員会による報告書(パート1B)、第96回ILO総会(2007年)第75~77 項
[3]同報告書第206項
[4]同報告書第18項
[5]「強制のコスト」 第41項

契約

Q18:契約を結ばないまま働いているか、契約を結んでいても、使われている言語が読めないか、理解できないために、契約内容を理解しないまま働いている従業員がいます。この状況はどの程度、強制労働に関するILO条約違反となりえますか。強制労働を避けるために、企業は労働者が理解できる言語に契約を翻訳する義務を負いますか。

A18:すべての労働者は、自らが容易に理解することができる言語で書かれ、かつ、賃金の支払、超過勤務、身分証明書の保管その他、強制労働防止に関連する問題に関する諸権利を明記した契約を結ぶべきです。

洋上での作業

Q19:ある従業員は洋上(油田採掘設備など)で働いています。その労働契約は、洋上滞在期間に言及しながら、早期離職の可能性に触れていません。この労働者は離職を望んでいますが、物理的に持ち場を離れられない状況にあります。処罰の脅威はなく、同人は自発的に契約を受け入れてはいますが、移動が制約されていることは明らかです。これはどの程度、強制労働に関するILO条約違反に当たる可能性がありますか。

A19:強制労働とは、処罰の脅威を受けた者が、自発的に働いていない状況で提供する労働又は役務を指します[1]。

すべての労働関係は契約当事者による合意に基づくべきであるという原則は、国内法又は労働協約に基づき、合理的な予告を行うことを条件に、双方の当事者がいつでも労働関係を離れられることを示唆します。労働者が処罰を受けるおそれなく、その同意を撤回することができなければ、当該作業は、労働者が働くのを止める権利を否定された時点から、強制労働とみなされかねません。

移動の自由の制約は、労働関係の離脱への障害に当たりかねないため、自発性に関する疑問が生じます。但し、洋上勤務の場合には、合理的な期間について移動を制限する正当な技術的理由があります。とはいえ、あらかじめ労働者にこの契約条件を十分伝え、洋上滞在期間が合理的に定められている旨を説明することが大切です。

[1]1930年の強制労働条約(第29号)第2条

Q20:ある工場は、無許可で休暇を取ったり、最低品質基準を満たしていなかったりする労働者に罰金を科しています。罰金に関する方針はどのような場合、強制労働条約に違反することになりますか。

A20:品質基準や無断欠勤などの社内規則違反に対する罰金は、強制労働の問題ではありません。労働者が作業を強制されているかどうかに関係がないからです。但し、賃金保護など、その他の国際労働基準の原則に関する問題にはなりえます。

Q21:当社の拠点や傘下企業の中には、当社の福利厚生制度の一環として、従業員に貸付を行っているものがあります。この好事例に負の側面が生じないよう、当社としては、奴隷労働や移動の自由の阻害とみなされかねない事件が生じたり、分割払いによって日給が最低賃金を割り込んだりすることがないようにするための方針の策定を図っているところです。

A21:そうした方針では、賃金の前払や従業員への融資が労働者を雇用に縛り付けるための手段として使用されないことを明確にする必要があります。前払や融資は国内法令に定められた限度を超えてはなりません。貸付金の返済のため行う賃金からの控除は国内法令に規定された限度を超えてはなりません。また労働者は前払や融資の供与と返済に関連した条件を知らされている必要があります。

Q22:人身取引の防止に関し、何か企業に提案できることはありますか。

A22:ILOも参画している「人身取引と闘う国連グローバル・イニシアチブ」はガイド「人身取引とビジネス」を作成しています。

Q23:職業技術訓練に関する返済又は天引制度に関し、何か情報がありますか。返済額として合理的な金額はどのくらいですか。また、訓練や返済のプロセス又は料金が過剰かどうかを判断するうえで、情報を集めるべき主要指標には、どのようなものがありますか。

A23:訓練費用の返済に関する質問については、条約勧告適用専門家委員会(CEACR)が、労働者の離職の自由という問題との関連で言及しています。使用者又は国による訓練を受けた労働者は、一定期間の勤務を義務づけられることがあります。とはいえ、このような場合、監視機構は各国政府に対し、労働者が訓練期間の長さに比例した合理的な期間内に、又は発生した訓練費用の相当割合を返済した後に、離職できるようにすることを要請しています。

監視機構は、労働者による訓練費用の返済に関し、受容可能とみなすことのできる指標も金額も割合も設定していません。CEACRが返済額、又は、相当とみなしうる返済割合について指針を提供したこともありません。委員会は主として、公共部門でこの問題を検討していますが、各国の事情の特殊性に鑑み、政府にはケースバイケースで情報請求を行っています。

例えば、奨学金を受けた軍人の辞職が法律により、(i)奨学金支給期間が1年を超える場合は勤続10年後にのみ、及び、(ii) 奨学金を返済する場合は、国が負担した訓練費用の2倍に相当する額を同人が返済した後にのみ認められている国について、CEACRは、奨学金受給者でも、国が費用を負担した勉学の期間に比例する合理的な期間内に、又は、国が負担した実費の返済により、離職する権利を有するべきである旨を指摘しています。また別の国に関して、CEACRは「短期間の多額の返済により、卒業生は事実上、兵役を退くことができなくなり、法律で兵役を強制するのも同然となるが、これは条約違反に相当する」という状況に関して、政府の注意を喚起しています。