ILOヘルプデスク 雇用の安定に関するQ&A

質問

  1. 誰が労働者に当たるのか(労働者性)はILOの基準においてどのように決まっていますか?
  2. 解雇を正当化する事由はどのようなものがありますか?
  3. 個人保護具を装着しなかったことを理由にして直ちに解雇できますか?
  4. 目の手術のため職場を離れている労働者を解雇することはできますか?
  5. 妊娠中の女性労働者を妊娠とは別の理由で解雇し、しかも解雇時に妊娠の事実について会社が把握していなかった場合は適法ですか?
  6. 会社が買い上げられてしまったとき、次のグループに対する退職手当の基準はありますか?(1)新しい会社によって引き続き雇用される従業員、(2)職を失う従業員
  7. 解雇予告期間の定めはどのようになっていますか?
  8. 会社のリストラや売却に際して労働組合を関与させるべきですか?
  9. リストラ・整理解雇に際して良き労使慣行確立のために参照すべき事項はありますか?
  10. 長期間にわたる労働契約締結に伴う社会給付の負担を回避するため短期の労働契約更新を繰り返す手法に対処するILOの指針はありますか? 

Q1 誰が労働者に当たるのか(労働者性)はILOの基準においてどのように決まっていますか?

A1 当該雇用関係が関係当事者間で合意された契約その他の方法による事実に反した取決めにおいてどのように特徴付けられている場合であっても、第一義的に業務の遂行及び労働者の報酬に関する事実に基づいて決定されるべきであるとしています(第198号「雇用関係に関する勧告」9項 参照)。

 

雇用関係の存在を示す具体的指標としては以下のものがあります(同勧告13項)。

a)当該業務の実態に関して

  • 仕事が他の当事者の指示及び管理の下で行われていること
  • 仕事が事業体組織への労働者の統合を含むものであること
  • 仕事が他の者の利益のために専ら若しくは主として遂行されていること
  • 仕事が労働者自身で行われなければならないものであること
  • 仕事がこれを依頼する当事者が指定若しくは同意した具体的な労働時間内若しくは職場で行われていること
  • 仕事が特定の存続期間及び一定の継続性を有したものであること
  • 仕事が労働者に対して就労可能な状況にあることを要求するものであること
  • 又は、仕事がこれを依頼する当事者による道具、材料及び機械の提供を含むものであること

 

b)労働者に対する定期的な報酬の支払があること、当該報酬が労働者の唯一若しくは主な収入源となっていること、食糧、宿泊及び輸送等の現物による供与があること、週休及び年次休暇等についての権利が認められていること、労働者が仕事を遂行するために行う出張に対して当該仕事を依頼する当事者による支払があること、又は労働者にとって金銭上の危険がないこと。

 

Q2 解雇を正当化する事由はどのようなものがありますか?

A2 第158号「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(参照)は、労働者の雇用は、当該労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならないと規定しています。


この正当事由を充たさないと考えられる解雇理由としては、以下のものがあります。人種、皮膚の色、性別、既婚者であること、家族の世話をする必要があること、妊娠、宗教、政治的意見、国民的出身又は社会的出身、労働組合加入又はその活動への参加、使用者に対する不服申立て、病気による一時欠勤。

 

また、解雇をする場合は、労働者の権利保護のための手続保障も大切です。

 

Q3 個人保護具を装着しなかったことを理由にして直ちに解雇できますか?

A3 労働安全衛生A3の回答を参照してください。

 

Q4 目の手術のため職場を離れている労働者を解雇することはできますか?

A4 A2で前記したように、病気による一時欠勤は解雇の正当事由とならず、そのような理由に基づく解雇はできません。

 

Q5 妊娠中の女性労働者を妊娠とは別の理由で解雇し、しかも解雇時に妊娠の事実について会社が把握していなかった場合は適法ですか?

A5 A2で前記したように、妊娠それ自体は解雇の正当事由となりませんが、たとえ当該労働者が妊娠中であったとしても、他の正当事由がある場合それに基づく解雇は許されます。ただ、解雇の理由が妊娠とは関係ないことについて使用者側が証明責任を負います。

 

Q6 会社が買い上げられてしまったとき、次のグループに対する退職手当の基準はありますか?(1)新しい会社によって引き続き雇用される従業員、(2)職を失う従業員

A6 (2)のグループについては、離職手当その他の離職給付、失業保険給付又はその他の社会保障給付、手当又は給付の組合せ、以上のうちどれかひとつが与えられるべきであるとされています(第158号条約12条)。どれが与えられるかは当該国の法制を参照して決めることになります。(1)のグループについては、範囲の対象外であり、かつての雇用主から上記のような手当等を受けることはできません。

 

Q7 解雇予告期間の定めはどのようになっていますか?

A7 解雇されることとなった労働者は、重大な非行をしていない限りは、合理的な予告期間又はそれに代わる補償を受ける権利があるとされています(第158号条約11条)。

 

Q8 会社のリストラや売却に際して労働組合を関与させるべきですか?

A8 リストラや売却は労使双方にとって関心事項であるとともに、組織変更に対して円滑に対処していくためには労使の協力が大切です。

 

このため、できる限り早い段階で労働者の代表に十分な情報を与え、協議をするなどして、労働者に対する負の影響を軽減することが必要です。

 

Q9 リストラ・整理解雇に際して良き労使慣行確立のために参照すべき事項はありますか?

A9 良き慣行の確立という観点からリストラの際は以下の手順を踏むことが有用です。

1)労働者や労働者の代表者と協議を尽くす。

2)全員が会社の現状を把握できるよう情報を共有する。

3)改革案は短期的対応ではなく長期的な計画になるようにする。

4)当該国の法令や慣行と調和した改革案をつくる。

5)改革案の導入段階やその後の完了段階で改革の評価を実施する。

 

加えて、整理解雇を実施する際に考慮が必要な主な事項としては以下のものがあります。

  • 全ての関連情報の共有を含め当該労働者及び労働者の代表者と協議を尽くす。
  • 整理解雇の影響を軽減するための措置を講じる。
  • 整理解雇が公正なものとなり、当該国の雇用法制・関連する団体協約・当該産業界の指針に沿うものとなるようにする。
  • 不服申立制度を整備する。
  • 整理解雇の対象者選定基準を外部からみても客観的かつ合理的であると評価され得るものとする。差別が絶対にないようにする。
  • 整理解雇に関する連絡は慎重に行い、かつ、対象となる労働者に対して直接連絡するようにする。

 

Q10 長期間にわたる労働契約締結に伴う社会給付の負担を回避するため短期の労働契約更新を繰り返す手法に対処するILOの指針はありますか?

A10 多国籍企業宣言は、多国籍企業は、積極的な労働力計画を通じて、その被用者に対して安定した雇用を与えるよう努めるべきであり、また、雇用安定及び社会保障に関する自由な交渉の結果負った義務を遵守すべきであると規定しています。

 

Q11 従業員を現地の民間職業事業所によって賄っている場合、これらの従業員の権利を保護するための留意点を教えてください。

A11 労働者は民間職業事業所との間で、雇用条件を明記した書面による契約を締結しなければならず、雇用条件は前もって当該労働者に伝えられていなければなりません(第188号「民間職業事業所に関する勧告」5項 参照)。当該国の法制が特定の職種について認めている場合を除き、労働者は直接・間接を問わず、手数料又は経費の支払義務を負いません(第181号「民間職業仲介事業所に関する条約」7条 参照)。当該労働者が不当な差別を受けないよう注意する必要があります。派遣先の使用者企業との間で労働者が期限の定めのない雇用契約を結ぶことを禁止してはいけません(第188号勧告15項)。

 

本部サイトはこちら