1989年の原住民及び種族民条約(第169号)

ILO条約 | 1989/06/27

独立国における原住民及び種族民に関する条約(第169号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴにおいて招集されて、千九百八十九年六月七日にその第七十六回会期として会合し、
 千九百五十七年の原住民及び種族民条約及び勧告に含まれる国際基準に留意し、
 世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約並びに差別の防止に関する多くの国際文書を想起し、
 千九百五十七年以降に国際法において起こった発展並びに世界のすべての地域における原住民及び種族民の状態の発展が、それ以前の基準の同化主義者的な方向付けを除去するため、問題について新しい国際基準を採択することを適切にしたことを考慮し、
 これらの人民の居住する国家の枠内において、これらの人民の制度、生活方法及び経済発展を管理し、並びにその独自性、言語及び宗教を維持し、発展させるという願望を認め、
 世界の多くの地域において、これらの人民が、その居住する国の他の住民と同程度の基本的人権を享受できないこと並びにその法律、価値、習慣及び見通しがしばしば侵食されてきたことに留意し、
 人類の文化的多様性、社会的、生態学的調和並びに国際協力及び国際理解への原住民及び種族民の顕著な貢献に注意を払い、
 次の規定は、国際連合、国際連合食糧農業機関、国際連合教育科学文化機関及び世界保健機関並びに汎アメリカン・インディアン協会の適切な段階及びそれぞれの分野における協力を得て作成されてきており、また、これらの規定の適用の促進及び確保に当たり、この協力を維持することが提案されていることに留意し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である千九百五十七年の原住民及び種族民条約(第百七号)の一部改正に関する提案の採択を決定し、
 これらの提案が千九百五十七年の原住民及び種族民条約を改正する国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百八十九年の原住民及び種族民条約と称することができる。)を千九百八十九年六月二十七日に採択する。

第 一 部 一般政策

第 一 条

1 この条約は、次の者について適用する。
 (a) 独立国における種族民で、その社会的、文化的及び経済的状態によりその国の共同社会の他の部類の者と区別され、かつ、その地位が、自己の慣習若しくは伝統により又は特別の法令によって全部又は一部規制されているもの
 (b) 独立国における人民で、征服、植民又は現在の国境の確立の時に当該国又は当該国が地理的に属する地域に居住していた住民の子孫であるため原住民とみなされ、かつ、法律上の地位のいかんを問わず、自己の社会的、経済的、文化的及び政治的制度の一部又は全部を保持しているもの
2 原住又は種族であるという自己認識は、この条約を適用する集団を決定する基本的な基準とみなされる。
3 この条約における「人民」という語の使用は、国際法の下においてその語に付随する場合のある権利についていずれかの意味を有すると解釈してはならない。

第 二 条

1 政府は、関係人民の参加を得て、これらの人民の権利を保護し及びこれらの人民の元の状態の尊重を保証するための調整され、かつ、組織された活動を進展することについて責任を有する。
2 当該活動には、次の措置を含む。
 (a) これらの人民の構成員が、平等の立場で、国内法令により当該住民のうちの他の構成員が保証されている権利及び機会から利益を得ることができるよう確保すること。
 (b) これらの人民の社会的及び文化的独自性、慣習、伝統並びに制度を尊重して、その社会的、経済的及び文化的権利の十分な実現を促進すること。
 (c) 原住民とその国の共同社会の他の構成員との間に存在しうる社会経済的格差を除去するため、関係人民の構成員をその希望及び生活方法と適合する方法によって、援助すること。

第 三 条

1 原住民及び種族民は、妨害され又は差別されることなく、十分な人権及び基本的自由を享受する。条約は、これらの人民の男女の構成員について差別なしに適用される。
2 いかなる形態の暴力及び強制も、関係人民の人権及び基本的自由(この条約に規定する諸権利を含む。)を侵害して用いてはならない。

第 四 条

1 関係人民の人身、制度、財産、労働、文化及び環境を保護するため、適当な場合には、特別の措置をとる。
2 その特別措置は、関係人民の自由に表明された希望に反してはならない。
3 その特別措置は、一般市民権を差別なく享受することをなんら害するものであってはならない。

第 五 条

 この条約の適用に当たり、
 (a) これらの人民の社会的、文化的、宗教的及び精神的な価値及び慣行は、承認され、保護されるものとし、また、彼らが集団及び個人として直面する問題の性質に関して、適切な考慮が払われる。
 (b) これらの人民の価値、慣行及び制度の元の状態は尊重される。
 (c) これらの人民が生活及び労働の新たな条件に直面するに当たっては、影響をうける人民の参加及び協力を得て、当該人民の経験する困難を緩和するための政策を行う。

第 六 条

1 この条約の適用に当たり、政府は、
 (a) 関係人民に直接影響するおそれのある法的又は行政的措置が検討されている場合には、常に、適切な手続、特に、その代表的団体を通じて、これらの人民と協議する。
 (b) 関係人民が選挙による制度並びにこれらの人民に影響を与える政策及び計画に責任を有する行政機関及び他の機関に、意思決定のすべての段階において、少なくとも地域の他の住民と同じ程度で、自由に参加することができる手段を確立する。
 (c) これらの人民自身の制度及び発意を十分に高める手段を確立し、また、適切な場合には、このために必要な財源を提供する。
2 この条約の適用に当たって行われる協議は、誠実にかつ状況に適する形式で、提案された措置についての合意又は同意を達成する目的のために行われる。

第 七 条

1 関係人民は、その生活、信条、制度、精神的幸福及び自己が占有し又は使用する土地に影響を及ぼす開発過程に対し、その優先順位を決定する権利及び可能な範囲内でその経済的、社会的及び文化的発展を管理する権利を有する。更に、関係人民は、自己に直接影響するおそれのある国及び地域の発展のための計画及びプログラムの作成、実施及び評価に参加する。
2 関係人民の生活及び労働条件並びに健康及び教育水準の向上は、その参加及び協力を得て、これらの人民が居住する地域の総合的経済開発計画において優先させる。その地域の開発のための特別計画も、このような向上を促進するように立案される。
3 政府は、適当な場合にはいつでも、計画された開発事業が関係人民に与える社会的、精神的、文化的及び環境的影響を評価するため、これらの人民と協力して、調査が行われることを確保する。調査の結果は、これらの事業の実施のための基本的な基準とみなされる。
4 政府は、関係人民と協力して、これらの人民が居住する地域の環境を保護し及び維持する措置をとる。

第 八 条

1 関係人民へ国内法令を適用するに際しては、その慣習又は慣習法に適切な考慮を払う。
2 関係人民は、国内法制により定義された基本権及び国際的に承認された人権に矛盾しない場合には、その慣習及び制度を維持する権利を有する。この原則の適用に当たり生ずるおそれのある紛争を解決するため、必要な場合にはいつでも、手続を確立する。
3 1及び2の規定の適用は、関係人民の構成員が、すべての市民に与えられている権利を行使すること及びそれに伴う義務を負担することを妨げるものではない。

第 九 条

1 国内法制及び国際的に承認された人権に適合する限りにおいて、関係人民の構成員が犯した違反を扱うためにこれらの人民が慣習的に行っている方法を尊重する。
2 刑罰に関するこれらの人民の慣習については、当該刑罰の処理に当たる機関及び裁判所によって、考慮される。

第 十 条

1 一般的法律に定める刑罰を関係人民の構成員に科するに当たっては、その経済的、社会的及び文化的特性を考慮する。
2 拘置以外の処罰の方法を優先する。

第 十 一 条

 すべての市民について法律により規定される場合を除き、関係人民の構成員に対して強制的な個人的役務をいかなる形式で課することも、報酬の有無にかかわらず、法律により禁止され、かつ、罰せられる。

第 十 二 条

 関係人民はその権利の侵害から保護され、及び個人的に、又は代表的団体を通じて、これらの権利の実効的な保護のために訴えを提起することができる。関係人民の構成員が、訴訟において理解し及び理解されることを確保するため、必要な場合には、通訳の提供又は他の有効な手段によって措置がとられる。

第 二 部 土地

第 十 三 条

1 この部の規定を適用するに当たり、政府は、関係人民が占有し若しくは使用している土地若しくは地域又は、可能な場合には、その双方とこれらの人民との関係が有するその文化的及び精神的価値についての特別な重要性並びに、特に、その関係の集団的側面を尊重する。
2 第十五条及び第十六条の「土地」という用語の使用には、関係人民が占有し又は使用している地域の全体的環境を包括する地域の概念を含む。

第 十 四 条

1 関係人民が伝統的に占有する土地の所有権及び占有権を認める。更に、適切な場合には、排他的に占有していない土地で、関係人民の生存及び伝統的な活動のために伝統的に出入りしてきた土地を利用するこれらの人民の権利を保証するための措置をとる。このため、遊牧民及び移動農耕者の状況について特別な注意を払う。
2 政府は、必要な場合には、関係人民が伝統的に占有する土地を確認し並びにその所有権及び占有権の効果的な保護を保証するための措置をとる。
3 関係人民による土地の請求を解決するために国の法制度内において適切な手続を確立する。

第 十 五 条

1 関係人民の土地に属する天然資源に関する関係人民の権利は、特別に保護される。これらの権利には、当該資源の使用、管理及び保存に参加するこれらの人民の権利を含む。
2 国家が鉱物若しくは地下資源の所有権又は土地に属する他の資源に対する権利を保有する場合には、政府は、当該資源の探査若しくは開発のための計画を実施し又は許可を与える前に、当該地域の関係人民の利益が害されるか及びどの程度まで害されるかを確認するため、これらの人民と協議する手続を確立し、又は維持する。関係人民は、可能な限り、このような活動の利益を享受し、かつ、当該活動の結果被るおそれのある損害に対しては、公正な補償を受ける。

第 十 六 条

1 2から5までの規定を条件として、関係人民は、自己が占有する土地から移転させられない。
2 例外的な措置としてこれらの人民の移転が必要と考えられる場合においては、その移転は、関係人民の自由な、及び事情を知らされたうえでの同意のあるときにのみ行われる。同意を得ることができない場合には、関係人民の有効な申立ての機会を規定する国内法令により設けられた適切な手続(適切な場合には公的調査を含む。)を経ることのみにより、その移転は行われる。
3 可能な場合においていつでも、関係人民は、移転の理由がなくなったときは、直ちに自己の伝統的な土地に帰還する権利を有する。
4 3の帰還が可能でない場合において、定められた合意又はそのような合意が存在しないときは適当な手続により、関係人民は、可能な限り、自己が以前に占有していた土地と少なくとも同等の質及び法的地位の土地であって、その現在の必要及び将来の発展に備えるためにふさわしいものが供与される。これらの人民は、金銭又は現物による補償のいずれかを希望した場合には、適切な保証に基づいてそうした補償が行われる。
5 1から4までに定めるところにより移転させられた者は、結果として生ずるいかなる損失又は損害に対しても、十分な補償を受ける。

第 十 七 条

1 関係人民の構成員の間の土地の権利の譲渡に関して、これらの人民により確立された手続は、尊重される。
2 関係人民は、その土地を譲渡し、又は他の方法により自己の共同体の外部に自己の権利を譲渡する資格について検討が行われるときはいつでも、協議を受ける。
3 関係人民の構成員に属する土地の所有、占有又は使用を確保するため、これらの人民に属さない者が、その慣習又は法律に関する当該構成員の知識の欠如を利用することを妨げる。

第 十 八 条

 関係人民の土地への許可なき侵入又はその土地の使用について、法律により適当な罰則が定められるものとし、政府は、これらの違反を防ぐための措置をとる。

第 十 九 条

 国の農地計画は、関係人民に対し、次のことについて、他の部類の住民に与えられる待遇と同様の待遇を確保する。
 (a) 関係人民の正常な生活に欠くことのできないものを確保するため又は将来の人口増加のために必要な地域を有していないときは、これらの人民に対し、更に多くの土地を提供すること。
 (b) 関係人民がすでに所有している土地の開発を促進するために必要な手段を提供すること。

第 三 部 募集及び雇用の条件

第 二 十 条

1 政府は、国内法令の枠内において、及び関係人民の協力を得て、これらの人民に属する労働者の募集及び雇用条件について、労働者一般について適用する法律によりこれらの人民が有効に保護されていない範囲内で、その有効な保護を確保するため、特別な措置をとるものとする。
2 政府は、関係人民に属する労働者及び他の労働者との間のすべての差別待遇を防止するため、可能なあらゆることを行うものとし、特に、次の事項に関して努力する。
 (a) 雇入れ(熟練労働への雇入れを含む。)並びに昇進及び昇格のための措置
 (b) 同一価値の労働に対する同一賃金
 (c) 医療扶助、社会扶助、職業上の安全及び健康、すべての社会保障給付、他の職業に関連する給付並びに住宅
 (d) 団結権、すべての合法的組合活動の自由及び使用者又は使用者団体との労働協約の締結権
3 とられる措置には、次のことを確保する措置を含む。
 (a) 関係人民に属する労働者(農業及び他の産業の雇用における季節労働者、臨時の労働者、移民の労働者及び労働請負業者によって雇われた者を含む。)が、同じ部門における他の同様の労働者に対して国内法及び慣行により与えられる保護を受けること並びに労働立法に基づき自己の権利及び利用できる救済の手段について十分に知らされること。
 (b) 関係人民に属する労働者が特に殺虫剤又は他の有毒物質にさらされることによって健康を害する労働条件のもとに置かれないこと。
 (c) これらの人民に属する労働者が強制的な募集方法(強制労働及び他の形態の債務労役を含む。)に服せられるべきでないこと。
 (d) これらの人民に属する労働者が雇用における男女間の均等な機会及び待遇並びに性的いやがらせからの保護を受けること。
4 関係人民に属する労働者が賃金の支払われる雇用に就いている地域において、この部の規定を遵守するため、適切な労働監督サービスの確立について特別な注意が払われる。

第 四 部 職業訓練、手工業及び農村工業

第 二 十 一 条

 関係人民の構成員は、職業訓練措置について、少なくとも他の市民と平等な機会を享受するものとする。

第 二 十 二 条

1 関係人民の構成員が一般に適用する職業訓練計画に自発的に参加することを促進するための措置をとる。
2 一般に適用する現行の職業訓練計画が関係人民の特別の必要を満たさないときはいつでも、政府は、その参加を得て、特別な訓練に関する計画及び施設の提供を確保する。
3 いかなる特別訓練計画も、関係人民の経済的環境、社会的及び文化的条件並びに実際の必要に基づく。これに関連して行われるいかなる調査も、当該計画の編成と実施について協議を受けるこれらの人民の協力を得て行われる。実行可能な場合において、これらの人民は、自己が決定したときは、当該計画の編成及び実施に対する責任を漸進的に引き受ける。

第 二 十 三 条

1 関係人民の手工業、農村及び地域社会を基盤とする産業並びに狩猟、漁業、わな掛け、採取のような生活経済及び伝統的活動は、その文化の保存並びに経済的自立及び発展の重要な要因として認められる。政府は、これらの人民の参加を得て、適当な場合にはいつでも、これらの活動が強化され及び促進されることを確保する。
2 関係人民の要請により、適当な技術的及び財政的援助が、これらの人民の伝統的技術及び文化的特性並びに持続的及び公正な発展の重要性を考慮して、可能な場合にはいつでも提供される。

第 五 部 社会保障及び保健

第 二 十 四 条

 社会保障制度は、関係人民を対象とするよう漸進的に拡張され、差別なしにこれらの人民について適用される。

第 二 十 五 条

1 政府は、関係人民が達成可能な最高の肉体的及び精神的な健康水準を享受できるよう、これらの人民が適当な保健サービスを利用できることを確保するものとし、又は、自己の責任と管理の下で、これらの人民が当該サービスを計画し、供与するための資源を提供する。
2 保健サービスは、可能な範囲において、地域社会を基盤とする。これらのサービスは、関係人民の協力を得て、計画し、運営し、並びにその伝統的な予防措置、治療方法及び薬剤とともにその経済的、地理的、社会的及び文化的条件を考慮する。
3 保健医療制度は、地域社会の保健医療労働者の訓練及び雇用を優先するものとし、他のレベルの健康医療サービスと強い関連を維持しつつ、プライマリー・ヘルス・ケアに焦点を置く。
4 当該保健サービスの提供は、国の社会的、経済的及び文化的措置と調整される。

第 六 部 教育及び伝達の手段

第 二 十 六 条

 関係人民の構成員が、その国の共同社会の他の者と少なくとも同等の立場で、あらゆる段階の教育を受ける機会を有するよう確保するための措置をとる。

第 二 十 七 条

1 関係人民のための教育計画及びサービスは、これらの人民の特別の必要に合わせるため、これらの人民との協力により開発され、実施され、かつ、その歴史、知識、技術、価値体系並びに社会的、経済的及び文化的願望を組み入れる。
2 権限のある機関は、適当な場合には、教育計画の実施の責任を関係人民に漸進的に移行させる目的で、関係人民の構成員の訓練並びにその教育計画の編成及び実施への関与を確保する。
3 更に、政府は、関係人民の教育制度及び施設が権限のある機関によりこれらの人民との協議の上定められた最低基準を満たす場合には、当該制度及び施設を確立するこれらの人民の権利を認める。適切な資源は、この目的のために提供される。

第 二 十 八 条

1 関係人民に属する児童は、実行可能な場合にはいつでも、関係人民自身の固有の言語又はその属する集団が最も普通に使用する言語で、読み書きを教えられる。これが実行可能でない場合には、権限のある機関は、この目的を達成する措置を採用するためにこれらの人民と協議する。
2 これらの人民がその国の国語を又は公用語の一つを自由に操れるようになるための機会を有することを確保するため適切な措置をとる。
3 関係人民の固有の言語を保存し、その発展及び活用を促進するための措置をとる。

第 二 十 九 条

 関係人民に属する児童が関係人民自身及びその国の共同社会に十分にかつ対等な立場で参加することに役立つ一般的な知識及び技能を与えることを、これらの人民の教育の一つの目的とする。

第 三 十 条

1 政府は、関係人民に対し、その権利及び義務、特に労働、経済的機会、教育及び健康問題、社会福祉並びにこの条約に由来するこれらの人民の権利を理解させるため、その伝統及び文化に適した措置をとる。
2 前記の措置は、必要があるときは、これらの人民の言語による翻訳書及び大衆通報(マス・コミュニケーション)の利用により行われる。

第 三 十 一 条

 国の共同社会のすべての部類の者、特に関係人民と最も直接に接触する者のこれらの人民に対する偏見を除去するため、教育的措置をとるものとする。この目的のため、歴史の教科書及び他の教材がこれらの人民の社会及び文化についての公正な、正確なかつ情報に富む描写を提供することを確保するように努力する。

第 七 部 国境を越える接触及び協力

第 三 十 二 条

 政府は、国境を越える原住民及び種族民の間の経済、社会、文化、精神及び環境の分野における活動を含む接触及び協力を容易にするため、国際合意による方法のような適当な措置をとる。

第 八 部 行政

第 三 十 三 条

1 この条約に定める事項について責任を有する政府当局は、関係人民に影響する計画を執行するための機関又は他の適切な機構が存在することを確保し、また、これらに付託された機能の適切な実現に必要な手段を関係人民が持つことを確保する。
2 1の計画には、次のことを含むものとする。
 (a) 関係人民と協力して行う、この条約に規定する措置の立案、調整、実施及び評価
 (b) 関係人民と協力して行う、権限のある機関に対する立法その他の措置の提案及びとられた措置の適用の監督

第 九 部 一般規定

第 三 十 四 条

 この条約を実施するためにとる措置の性質及び範囲は、それぞれの国に特有の事情を考慮して、柔軟な方法で決定する。

第 三 十 五 条

 この条約の適用は、他の条約及び勧告、国際文書、条約又は国内の法律、裁定並びに慣行又は合意に従って関係人民に与えられる権利及び利益に不利な影響を及ぼすものではない。

第 十 部  最終規定

第 三 十 六 条

 この条約は千九百五十七年の原住民及び種族民条約を改正するものである。

第 三 十 七 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 三 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 三 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 四 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 四 十 一 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 四 十 ニ 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 四 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第三十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 四 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。