専門家会合

仕事の世界における男女に対する暴力専門家会議

 仕事の世界における暴力は人々の尊厳、安全保障、健康、福祉を脅かし、直接関係する労使のみならず、その家族、地域社会、経済、そして広く社会全体に影響を与えます。1944年に採択されたILOのフィラデルフィア宣言は、すべての人間は、「自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」と謳っていますが、2015年に国連で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたことによって暴力の問題は最近国際的に注目を集めています。17の持続可能な開発目標とその具体的な達成目標である169のターゲットで構成され、2030年までに経済、社会、環境の持続可能性を達成してこの世界を変えるための道筋を示すアジェンダは、「生産的な完全雇用とすべての人のディーセント・ワーク」、不平等の縮小、「すべての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力の根絶」などを求めています。

 仕事の世界における暴力の問題に関する国際的なリーダーシップの必要性がILOの話し合いの場でたびたび言及されたことから、ILOは2018年の第107回総会の議題に「仕事の世界における男女に対する暴力」の問題を含み、基準設定に向けた議論を開始することとしました。その準備作業の一環として開かれたこの会合には政府側8人、労使各側7人の専門家が出席し、仕事の世界における男女に対する暴力の性質、その原因、構成要素、影響、必要な行動に関する幅広く突き詰めた議論を行い、全員一致で一連の結論を採択しました。専門家らは国による用語の違いを認めた上で、心身または性的な被害に帰する可能性が高い、許容できない行動及び慣行の連続性を理解するには、「暴力と嫌がらせ(ハラスメント)」といったくくりを用いるのが有用であろうとし、総会議題をそのように変更することを理事会に提案しました。また、総会における第1次討議に向けて通常より短い準備過程のスケジュールを提案しました。

 専門家らは暴力とディーセント・ワークは共存せず、暴力を仕事の一部と考えることはできないと強調し、仕事の世界における暴力及びハラスメントが個人や社会のみならず、生産性や企業の評判にも非常に大きな影響を与えていることに合意しました。採択された結論は、この問題が総会の議題となった経緯、問題の重要性を説く導入部に続き、取り組み強化の必要性などといった仕事の世界における暴力についての理解、公衆と接触する仕事や貴重品を取扱う仕事などといった仕事の世界における暴力のリスク要因、総合的な取り組みの必要性などの仕事の世界における暴力への対処法、そして新たな基準文書が対処すべきギャップといった構成で議論の内容をまとめています。専門家らは、既存の数多くの国際労働基準がある種の形態の職場内暴力及びハラスメント、特定の労働者集団についての保護を提供していることを認めつつも、定義がないことや対処方法の手引きが示されていないこと、総合的な取り組みの欠如などを指摘して、様々な経済・社会の現実、企業、暴力の形態、文脈に対処した十分に柔軟で焦点を絞った新たな基準の必要性について合意に達しました。

 討議のたたき台として準備された背景資料は、仕事の世界における暴力の定義を構成する要素、力関係など背景理解のための要素、主な趨勢、影響、保健医療部門や教育、救急業務など暴力にさらされる傾向が高い職業・産業部門、妊婦や若者、障害者などといった暴力にさらされやすい労働者群、国際労働基準や各国法令、労使団体のイニシアチブ、企業の行動規範などの対応策、モニタリング・説明責任の仕組みなど、この問題を巡る現状を世界的な観点からまとめています。


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仕事の世界における男女に対する暴力専門家会議