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アフリカにおける雇用集約型投資プログラム(EIIP)

ニュース記事 | 2019/04/18
2000年以降、アフリカ大陸は年間平均4.6%の経済成長率を誇り、世界で2番目に急成長を遂げている地域となりました。こうした経済成長は、公共インフラ投資によって大きく後押しされており、アフリカ諸国の総投資額は450億米ドル、すなわちアフリカ全体のGDPの7.2%となっています。しかしこの額は、需要を満たすために必要とされている930億米ドル、あるいはGDPの15%を大きく下回っています。インフラに対する過少投資と、それに伴う雇用の脆弱性は、貧困や社会的格差、そして様々な形態での脆弱性につながってしまいます。

質の高いインフラ投資が不十分な高度経済成長は、アフリカの人々の幸福度の改善に直結しません。アフリカ大陸全体の人口の3分の2にあたる人々が2022年まで脆弱な雇用環境におかれると予測されており、これはアフリカ連合(AU)による「アジェンダ2063」のビジョン、すなわち2023年までに雇用の脆弱性を42%まで下げるという目標とかけ離れています。特に若者が労働需要不足の影響を強く受けており、毎年1,000万人から1,200万人の若者が労働力の担い手となる中で、新たな仕事は300万しか生まれていません。

ILOによる雇用集約型投資プログラム(EIIP)は、現地での投資支援と現地の制度強化、及び包摂的成長への貢献を通じてこうした格差を是正し続けています。EIIPは、道路建設・維持管理などのインフラ開発への公共投資を通じて失業・不完全雇用の問題に対処すべく、関連する政策・プログラムの立案、実施、及び評価という一連の業務に取り組む各国の関係者を支援しています。その際にEIIPは、公的機関のみならず、地域コミュニティや市民社会、そして民間企業との協力も行っており、インフラ投資プログラム策定の際には、インフラの使用・維持管理のライフサイクルコストや雇用の創出、そして環境的持続可能性も考慮しています。短期的には、インフラ投資の効果は雇用保証として現れます。すなわち、EIIPは、即座に人間らしい働きがいのある仕事(ディーセント・ジョブ)と収入を生み出すことで、インフォーマル経済における社会保障へとつながり、雇用のフォーマル化に向けたスキームの入口となるのです。長期的には、このような労働基盤型アプローチを通じて建設されたインフラは経済を振興させ、ひいては地方における相乗効果を生み出すことにつながります。また、国際スタンダードに則った十分な訓練を受けつつ得られた建設業のスキルは、労働者の次の仕事への雇用可能性を高める一方で、官民連携(PPP)を通じて現地の請負業者、特に中小企業の開発にもつながります。

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2012年、ケニアにて。「石畳」と、日本の「土のう」の技術を用いた労働基盤型インフラ開発・整備と若者の雇用。

EIIPは、グリーンな職業を通じたグリーンな仕事に対する現地での投資を通じて、環境的に持続可能な経済・社会への公正な移行を実現させ、気候変動適応策にも貢献しています。EIIPは、環境に優しい地域資源の利用を、働きがいのある雇用創出に向けた強い原動力にしており、これはパリ協定による責務でもあります。例えば、排水設備工事や水保全に対する公共投資は、現地の労働者の雇用を生み出すだけでなく、その投資成果は、作物収穫量の減少をもたらす異常気象に対する地域コミュニティの適応能力向上への一助となります。EIIPによる同様の手法は、干ばつや降雨量の変化に対する灌漑や水土保全、及びより良い土地資源管理のほか、洪水に際する農村地域の交通網強化などにも適用されています。

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2018年、南アフリカにて。社会保障の拡大に向けた職業安定プログラム(PEP)に気候変動適応策を組み込んだ「グリーンな職業安定プログラム(PEP)」。

EIIPは現在、カメルーン、コモロ、コートジボワール、エチオピア、ガンビア、ガーナ、赤道ギニア、マダガスカル、モーリタニア、モザンビーク、ルワンダ、シエラレオネ、南アフリカ、チュニジア、ソマリア、スーダン、タンザニア、ウガンダ、そしてザンビアで活動しています。EIIPのプロジェクトはすべて、各国の開発戦略に沿って、総合的な成果をもたらす包括的アプローチで優先分野を特定しています。アフリカではこれまで、農業生産性向上を通じた食糧安全保障の確保、難民・移民と地域コミュニティへの雇用機会創出、また、復興プログラム支援を通じた平和構築などの分野でEIIPは大きな成果を挙げてきました。EIIPの各プロジェクトの詳しい情報はこちらをご覧ください。/eiip

EIIPは、パートナー国における知識の蓄積に向けた努力も支援しています。労働基盤型訓練施設は現在、ボツワナ、カメルーン、エチオピア、ガーナ、ケニア、レソト、マダガスカル、マリ、タンザニア、トーゴ、チュニジア、ウガンダ、そしてザンビアにあります。ILOはこれらの国の訓練所に対して、労働基盤型の請負契約に関するマネジメント・コース資料の準備やカリキュラムの改善、そして品質管理支援などを行ってきました。2015年には、ILOの支援により、これら13カ国の間で協力に関する一般協定が結ばれました。現在はこれらの施設の殆どが公費で賄われているなど、各国は労働集約型の手法に対する強いオーナーシップを発揮しています。ILOの支援はまた、現地でのPPP強化や、地域資源に関する研究能力の向上を目標として、高等教育機関にも拡大しています。

隔年開催の「労働基盤型事業実務者対象地域セミナー」は、南南協力の国際的プラットフォームとして機能しています。この地域セミナーは、1990年にEIIPの実務者がタンザニアで開催したことに端を発し、当初はILOによって計画、出資、運営され、参加者は20数名程度でした。それから25年以上を経て、現在では、同セミナーはハイレベルな国際的プラットフォームへと発展を遂げ、参加国によって開催・出資されるようになりました。この変遷もまた、労働基盤型の手法に対する各国のオーナーシップの証です。2017年には、第17回目となるセミナーがエチオピアのアディスアベバで開催され、9カ国の大臣を含む、520人以上の実務者が参加して活発な意見・経験の交換を通じた相互学習が行われました。

第17回地域セミナーに参加した各国大臣は、SDGs達成に向けて、雇用集約型投資アプローチにコミットすることを宣言しました。参加した大臣とハイレベルな代表者たちはさらに、働きがいのある仕事の創出、現地のキャパシティ・ビルディング、そしてモニタリング評価システムの導入に向けたILOによる支援の継続も要請しました。そのほか、大臣たちは、各国での雇用集約型プロジェクトの実施に向けて、アフリカ地域経済共同体やAU、そして地域開発銀行からの資金動員も求めています。それだけでなく、各国は、インフラを含む雇用計画をSDGsとAUのアジェンダ2063に結びつけること、そして開発協力パートナーからの支援を補完する形で、公共投資予算、民間セクター資金、及び市民社会資金などすべての資金調達を通じた持続可能な資金調達メカニズムを構築することにもコミットしています。第18回目となる次回の地域セミナーは、2019年9月9日から13日にかけて、チュニジアの首都チュニスにあるCité de la Cultureに於いて開催され、多くの参加者の間で相互学習プロセスが促進される予定となっています。

EIIPは、特に若者と女性に焦点を当てつつ、地域資源に基づいた戦略的アプローチを強化します。政策レベルにおいては、政策やプログラムの策定や規制を支援するほか、投資によってもたらされる直接的・非直接的な雇用インパクトを数値化する「雇用インパクト・アセスメント(EMPIA)」と呼ばれるツールを用いつつ、地域資源の活用を促進する具体的方法の開発も支援していきます。これらは、地域資源に関する研究と中小企業のキャパシティ・ビルディングによって増強されます。そして、実際のオペレーションにおいてこれらの支援は必ずボトムアップかつ現地密着型で行われます。こうしたEIIPの戦略的関与は、地方分権に向けたアフリカ諸国の努力に自然とつながるものでもあります。そして、アフリカが急速な人口増加に直面しているいま、EIIPは、若者の労働市場への初期参入と、女性による有給の雇用への平等なアクセスを特に重視していきます。若者と女性のために、そして若者と女性と共に行動することそれ自体が開発目標ですが、若者と女性が働きがいのある仕事に就くことは、2030アジェンダ達成に向けたほかの分野への貢献にもつながっていくのです。

EIIPは、連結性向上に向けた地域イニシアティブとの連携強化も模索していきます。EIIPは、地域経済共同体をはじめとするアフリカの様々な地域イニシアティブの重要な一部となっています。EIIPプロジェクトによる一般的な投資は、現地密着型の農村部インフラ整備ですが、こうした地方のインフラ整備と労働者の能力開発は、銀行による高額な巨大インフラ投資との相互作用をもたらします。こうした補完性は、西アフリカ地域におけるBoucle Ferroviaire(ブクル鉄道)と呼ばれる鉄道建設プロジェクトに見出すことができます。EIIPは、同プロジェクトに従事する若者が必要な能力を備えられるよう、西アフリカ地域の経済関税同盟「協商会議(Conseil de l’Entente)」と協力しており、2015年にはパートナーシップ協定が結ばれました。このプロジェクトは、ロメ(トーゴ)、コトヌー・パラクー(ベナン)、ドッソ・ニアメ(ニジェール)、ワガドゥグー(ブルキナファソ)を連結させるものです。

インフラ開発は、アフリカの持続可能な開発の鍵です。EIIPは今後、(1) 公共投資を通じた雇用創出の支援、(2)雇用インパクト評価、プログラム開発、請負契約、及びマネジメントに関する現地のキャパシティ強化、(3) 地域資源の利用と若者・女性の重視、(4) グリーンな職業を通じたグリーンな仕事の創出に向けた中小企業のキャパシティ強化、(5) 中小企業及び地域コミュニティへの関与、(6) アフリカ地域イニシアティブとの連携強化、(7) EIIPアプローチと主要なアフリカ地域投資プログラムとの連携、の7つの分野において、さらにその活動規模を拡大させていきます。

ILO 雇用政策局 開発・投資部長 塚本 美都 (つかもと みと)
1994年にILOでの勤務を開始。脆弱性、人道的な暮らし、雇用政策、及びインフラ開発を連結させた形でのアフリカ、アジア、ラテン・アメリカ諸国における労働集約型投資を用いたコミュニティ・ベースの活動支援に12年間携わる。格差是正に向けた経済・社会・環境インパクトとディーセント・ワークの創出を重視しつつ、公共事業プログラムにおける複数の目的に対応するため、公的雇用プログラム(PEP)、社会的保護の土台(SPF)、気候変動適応策のシナジー強化に向けてチームを主導。ILOでの勤務以前は、世界銀行においてセクター別戦略研究に従事し、ビジネス・教育・貿易分野で企業の社会的責任(CSR)に関する政策提言に寄与。

ILO 雇用政策局 開発・投資部 公共投資と雇用創出ユニット ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO) 渡邉 友基(わたなべ ともき)
上智大学外国語学部英語学科卒業。ウィーン外交アカデミーより国際関係学ディプロマ、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)より国際関係修士号を取得後、OECD日本政府代表部専門調査員(開発担当)として開発援助委員会(DAC)や開発センターにおいて、効果的な開発協力(ODA)政策や開発政策議論に携わった後、2019年よりILO本部にてJPOとして勤務。