共同論説:新型コロナウイルス

平等を中心に据えてより良い立て直しを

 ガイ・ライダーILO事務局長、アリシア・バルセナ国際連合ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)事務局長、タチアナ・ヴァロヴァヤ国際連合欧州本部(UNOG)事務局長は、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行からの回復期には平等と環境の持続可能性を中心に据えるよう訴えています。

声明 | 2020/07/16

 2020年6月12日にILOがSDGラボと共催した不平等と非公式(インフォーマル)経済に関するオンラインイベントに共に参加したガイ・ライダーILO事務局長、アリシア・バルセナ国際連合ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)事務局長、タチアナ・ヴァロヴァヤ国際連合欧州本部(UNOG)事務局長は2020年7月16日付で以下のような共同英文論説を発表して新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行からの回復期には平等と環境の持続可能性を中心に据えるよう訴えました。

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 新型コロナウイルスの世界的大流行は、前代未聞の規模と範囲に及ぶ社会・経済危機を引き起こしました。これは世界全体でフルタイム労働者に換算して4億人分という大規模な労働時間の減少をもたらしました。これはまた、社会的保護と労働市場に関連した、とりわけ性差、年齢、人種に基づく構造的な不平等を露呈させました。コロナ禍の打撃は、女性と最も脆弱な人口集団、とりわけ最貧困層に不均等に大きく、この多くがインフォーマル経済で生活の糧を得ています。これらの人々は上下水道も完備していないような過密な状態で暮らすことが多く、さらにまた、感染や死亡のリスクを高めるような健康問題を以前から抱えている可能性も高くなっています。

 この危機は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の17の持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけ不平等に関連した目標に沿って開発パラダイムを作り替えることの妥当性をはっきりと示しています。平等と環境の持続可能性を伴った、より良い立て直しを図ることが急務です。政治の指導者層が官民両部門の社会協約に関して合意し、社会が社会的保護を全ての人に広げ、社会的ショック、経済的ショック、環境面のショックを乗り切れるような、より強靱な社会を構築する地球規模の全面的なリセットが必要です。

 今の私たちの決定が今後数十年間のカギを握るのです。

 私たちは6月に世界全体で16億人に上るインフォーマルな就労者がコロナ禍の中で陥っている窮状に注意を喚起するハイレベル・バーチャル・パネル討議を開催しました。討議の中でインフォーマルな就労者がこの危機の破壊的な影響に対処するのを助け、中小企業を支え、生産能力の破壊を回避するために社会的保護と公共雇用措置を講じることの緊急性に光が当てられました。さらにまた、各国が主として現金給付を通じて危機の中での短期的な脆弱性を緩和するために講じている具体的な措置、そして公共雇用計画注1のような、コロナ禍後に労働者と地域社会に雇用機会を提供し、生産構造を守るような中期的な取り組みの事例が共有されました。

 例えば、南アフリカでは地域社会労働計画の迅速な規模拡大を通じて追加的な雇用機会が創出され、コロナ禍に対する迅速な対応が可能になりました。新型コロナウイルスの感染拡大を監視し、検査、追跡、ふるい分けを行うために、地域社会を基盤として保健医療労働者を1万人採用しました。ヨルダンやポルトガルは金融サービスの利用機会や就労許可、所得支援及び雇用維持事業、保健医療サービス、さらにはまたインフォーマル経済からの移行を支援する、より長期的な措置などを通じて、難民、移民労働者その他のインフォーマル経済に従事する人々を支援しています。中南米・カリブ諸国で実施されている主たる社会的保護措置はインフォーマル就労者その他の脆弱な人口集団の収入減を補填する現金及び現物給付です。こういった措置に中南米・カリブ地域がこれまでに費やした額は地域の国内総生産(GDP)の約1.4%に当たる約690億ドルです。

 政策対応の成否を占う究極の試金石は、女性や若者、移民を中心に、インフォーマル就労者や公式(フォーマル)就労者、そしてまた中小企業をいかに迅速かつ実効的に守ることができるかであると言えましょう。私たちの対応は目前の雇用と収入の喪失に対処しつつ、エネルギー移行と組み合わせた雇用集約的な回復を円滑化することを目指さなくてはなりません。このような決定的に重要な取り組みを行うのに残されている猶予はありません。

 世界の一部はまだ保健危機のただ中にいるものの、より良い立て直しを確保するために前を向くことが必要です。これは回復期の中心に平等と環境の持続可能性を据えることを意味します。コロナ禍はグローバル化とその基盤である持続不能で不平等な開発・経済モデルの脆弱性を露わにしました。これはまた中南米・カリブのような現在ウイルス流行の中心にある地域の経済における構造的なギャップに光を当てることにもなりました。いつも通りの仕事のやり方はもはや選択肢にはありません。

 コロナ禍に対する効果的な対応の中心は雇用創出であり、より良い立て直しの機会が存在します。例として、再生可能エネルギー部門や環境に優しい工事注2、新たな輸送・移動形態、基礎的な基盤構造や避難所、保健医療に対する地元投資などを挙げることができます。今後20年間の公共投資に必要な額は世界全体で20兆ドルに達すると見積もられます。新型コロナ後の経済、社会、環境の回復に対する投資を通じて生み出される雇用機会と所得保障は、社会正義を確保する、人間を中心に据えた取り組みの基盤となることでしょう。この中心には、暮らしの基盤構造の主たる構成要素である働きがいのある人間らしい仕事、頑健な保健医療制度、普遍的社会的保護を据えるべきです。共通の道はアジェンダ2030であり、それはまたより良い立て直しに向けた最も力強い手段でもあるのです。


(注1)エチオピアの生産的安全網計画(PSNP)、インドのマハトマ全国農村雇用保証法(MGNREGA)、南アフリカの拡大公共事業計画(EPWP)を始め、公共雇用計画の事例は世界中に多数見受けられます。

(注2)環境に優しい工事とは、直接的な環境上の利益があるか気候変動に関わる特定の危険に対応する基盤構造や地域社会の資産を構築する基盤構造及び関連部門(農業、環境などの部門)における働きがいのある人間らしい就労機会の創出に向けた戦略を指しています。