食料安全保障と栄養

ILO/FAO/IFAD/WHO共同声明-人々の生計、健康、食料体系に対する新型コロナウイルスの影響

 ILO、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が公衆衛生、食料体系、仕事の世界に前代未聞の課題を提示していることに注意を喚起し、地球規模の連帯と支援を訴える共同声明を発表しました。

声明 | 2020/10/13

 2020年10月13~15日に開かれた世界食料安全保障委員会(CFS)の「食料安全保障と栄養のグローバル・ガバナンス・ハイレベル特別イベント」に出席したガイ・ライダーILO事務局長は、同イベントにトップが出席した国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界保健機関(WHO)と共に以下の英文共同声明を発表し、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が公衆衛生、食料体系、仕事の世界に前代未聞の課題を提示していることに注意を喚起し、地球規模の連帯と支援を訴えました。

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 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は世界中で劇的に人命を失わせ、公衆衛生、食料体系、仕事の世界に前代未聞の課題を提示しています。ウイルスの流行が経済と社会に引き起こした混乱は破滅的で、数千万人が極度の貧困に陥るリスクに瀕している一方、現在は6億9,000万人近いと推定される栄養不足の人々が今年末までにさらに最大1億3,200万人増える可能性があります。

 数百の企業が存在を脅かされています。世界全体で33億人を数える労働者の半数近くが生計手段を失う危険にさらされています。非公式(インフォーマル)経済で働く人々は大半が社会的保護を欠き、良質の保健医療を受ける機会もなく、生産資産へのアクセスも失っているため、とりわけ脆弱な状態にあります。国土封鎖の中で収入を得る手段をもたないため、多くは自らが食べることも家族を食べさせることもできません。ほとんどの人にとって収入がないことは食料がないことを、あるいは良くても得られる食料、栄養価値の高い食料が少ないことを意味するのです。

 コロナ禍は食料体系全体に影響を与え、その弱さを露呈させました。国境封鎖、貿易制限、封じ込めの諸措置は、投入物の購入や生産物の販売を含み、農家の市場アクセスを阻み、農業労働者の作物収穫を阻んでいるため、国内の及び国際的な食料サプライチェーン(供給網)を途絶えさせ、安全かつ健康的で多様な食事が得られる機会を狭めています。コロナ禍は仕事を破壊し、数百万人の生計を危険にさらしています。一家の稼ぎ手が職を失い、病に倒れ、命を落とす中、数百万の人々の食料安全保障と栄養が脅かされています。低所得国に住む小規模農家や先住民を含む最も縁辺に置かれた人々がとりわけ、最も深刻な打撃を受けています。

 賃金労働者と自営業者の双方を含む数百万人の農業労働者は世界の台所に食を供給しつつも、貧困労働者率、栄養不足率、不健康率は恒常的に高く、安全や労働者保護の欠如に加え、他の種類の権利侵害も受けています。収入は低く不規則で社会的支援も欠いているため、しばしば安全でない状況で働き続けるよう駆り立てられる者も多く、その結果、自分自身や家族を追加的なリスクにさらしています。その上、収入を失った際には資産の投げ売りや高利貸し、児童労働などの否定的な対処戦略に頼る可能性があります。移民農業労働者は移動や生活・労働条件におけるリスクにさらされ、政府が導入した支援措置の利用に苦労しているため、特に脆弱な状態にあります。命を救い、公衆衛生や人々の生計手段、食料安全保障を守るには、一次生産者から食品の加工や輸送、そして露天商を含む小売りに関与する人々に至るあらゆる農業・食品労働者の安全と健康に加え、より良い収入と保護の保障が決定的に重要になるでしょう。

 新型コロナウイルス危機の中では、食料安全保障、公衆衛生、そして労働者の安全と健康を中心とした雇用・労働の諸問題が収斂を見せています。危機の人的側面に対処するには、あらゆる産業において職場の安全衛生慣行に従い、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会と労働者の権利の保護を確保することが決定的に重要になるでしょう。命と生計手段を救う即時の意図的な行動には、全ての人への保健医療の適用と最も影響を受けている人々への所得支援の方向に社会的保護を広げることを含むべきです。このような人々には、若者や高齢労働者、移民を含み、インフォーマル経済で働く人々や保護水準が劣悪で低賃金の仕事に就いている人々などが含まれます。低賃金職や介護などのケアの役割に過度に多く従事している女性の状況に特別の注意を払う必要があります。現金支給や児童手当と健康的な給食、避難所や食料救済のイニシアチブ、雇用の維持・回復に向けた支援、中小・零細企業を含む企業に対する財政救済など、様々な形態の支援がカギを握ります。このような措置の設計・実施に当たっては、政府が使用者及び労働者と緊密に協働することが必要不可欠です。

 既に存在していた人道危機や非常事態に取り組んでいる国々は新型コロナウイルスの影響に特にさらされています。人道・復興支援が最も必要としている人々に届くことを確保しつつ、ウイルスの流行に迅速に対応することが決定的に重要です。

 今こそ、とりわけ新興・途上国における社会の最も脆弱な層を中心に、地球規模の連帯と支援を図る時です。共に事に処して初めて、私たちはコロナ禍が保健と社会と経済に与えている絡み合った影響を克服し、これが既に達成された開発面の歩みを消失させる潜在力を秘めた人道と食料安全保障の長引く破局へと発展するのを阻止することができるでしょう。

 国連事務総長が6月に発表された「食料安全保障と栄養に対する新型コロナウイルスの影響に関する政策概説資料」に記されているように、より良い立て直しを図るこの機会を認識する必要があります。私たちはそれぞれの専門知識と経験を持ち寄り、この危機に対する諸国の対応措置、そして「持続可能な開発目標」の達成に向けた取り組みを支援することを約します。保健と農業・食品部門が直面している課題に対処する持続可能な長期的戦略を立てる必要もあります。その際には、根底にある食料安全保障と栄養不足の課題への対処、農山漁村経済におけるより多くのより良い仕事の創出によるものを中心とした農山漁村における貧困対策、社会的保護を全ての人に広げること、安全な移住の道の円滑化、そしてインフォーマル経済の公式(フォーマル)化促進を優先事項とすべきです。

最前線の労働者として新型コロナウイルスにさらされている食品小売業者

 最前線の労働者として新型コロナウイルスにさらされている食品小売業で働く人々の問題に注意を喚起した広報動画も制作されています。

2020年10月14日発表・英語・56秒

 新型コロナウイルス危機の中で食品小売業が最前線の労働者集団の一つとして登場してきました。

 ILO部門別政策局で官民サービス部門の長を務めるオリバー・リャンは、私たちに食べるものが十分にあることを確保しているこういった人々は同時に、公衆、そして感染の危険に大いにさらされていることを指摘しています。

 食品小売業の人々を正しく処遇するには、これらの人々に個人用保護具や衛生手順、十分な賃金を含む働きがいのある人間らしい労働条件、疾病休暇の給付などを含む社会的保護の機会が確保される必要があります。食品小売業は私たちの社会と経済の機能にとって決定的に重要です。より良い新たな日常を確保するために、全ての人々の健康、生計手段、食の安全と栄養を守りましょう。