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ILO駐日事務所(旧ILO東京支局)再開設50周年記念シンポジウム

人間の安全保障とILOの役割

カリ・タピオラ
ILO国際労働基準・仕事における基本的原則と権利担当総局長

タピオラILO国際労働基準・仕事における基本的原則と権利担当総局長写真 ILOの活動と人間の安全保障の関係は非常に明白である。1919年のILOの創設は−日本も創設にかかわった国の1つであるが−人間の安全保障そのものであるといってよい。世界的危機の中で、安全保障が崩壊し、社会的緊張により第一次世界大戦が起こることとなった。ILOは、特権階級の富裕層と搾取される貧困層の格差、国家間の格差、国内の格差が最悪の場合には紛争や戦争に発展する可能性があるとの信条にもとづいて創設された。

 壊滅的な被害をもたらす戦争、社会的緊張の解決のために革命が試みられた時代を背景とし、ILOの三者構成主義は、民主的で参加型の手法により、健全な経済活動や企業活動を阻害し、労働者に悪影響を与えその幸福を破壊したり阻んだりする紛争に対処しようというものである。当時、社会正義と平和は経済成長のために必要な基盤とみなされた。これは第2次世界大戦後の復興期でも同様であったし、グローバル化の時代でも同様である。

 この公式はきわめて単純で、経済成長期にはそれが正しいことが証明された。その公式は、経済成長や雇用の拡大とともに、仕事における基本的人権やディーセントな労働基準と労働条件から成り立っている。成長の成果を分かち合うための交渉と協力により、成長の効果は拡大する。

 成長の見通しが良いときは、二者間でも三者間でも協力は比較的容易である。しかし、経済危機のときはより困難になる。短期的な経済危機に備えて避難所を設けるのも一つだ。悪天候に見舞われた際、また好天になるまで濡れないように協力する必要があるとわかるであろう。しかし、経済が大規模な構造変化に直面しているときは、さらに困難である。雨、さらには台風に遭うというより、気候の変化に直面しており、行動、組織そしてプロセスをそれに合わせて調整しなければならない。

 諸条件が変化している現在、交渉、協議、三者協力というILOの伝統的な手法をどのように活用していくかが今日の課題となっている。これらの手法はグローバル化を管理するために利用できるだろうか。そして社会的責任のプロセスになりうるだろうか。2005年9月13日の国連総会世界サミットにおいて、「女性及び若者を含む、完全雇用と生産的な仕事に重点を置いたすべての人々にディーセント・ワークを」というILOの目標、「貧困削減戦略を含む国家開発」、1998年の「仕事における基本的原則及び権利に関するILO宣言」の全面的な尊重に言及したうえで、公正なグローバル化が目標の1つとして支持を集めた。

 政府、労使団体は、その取組みや構造がこの共通目標に相応しいか確認する必要がある。どういう変化が労働市場で起こっているか見極めることが重要である。仕事の世界は、もはや単一的な、集団的な仕事が中心ではない。一極集中で決定する構造はほとんどなくなり、仕事の単位や起業はより小さくなり、分散がより大きくなっている。

 組織に関する課題は、あなたの所属する組織やあなたの交渉相手が階層的でなく、ネットワーク化しているとき、どうしたら効率的に機能できるかである。意思決定についてトップダウン方式は少なくなり、より水平的になっている。対等なパートナーの利益の調整がますます必要になっている。個別の関心や要望も考慮しなければならず、しかもすべて均一な整合性のある枠組みの中で行われなければならない。

 ILOの4本柱からなるディーセント・ワークのアプローチは、新しい環境においても、経済社会、その中で働き、生活する人々の安全保障と基本的利益の確保をめざすものである。

1. 権利−労働基準

 共通の合意として成り立っている基準の遵守において枠組みがつくられる。枠組みは柔軟性を持っているものでもある。基準は柔軟性と矛盾するものではない。柔軟性の前提条件として基準があるといってもよい。基準が保障するのは平等な権利、1人1人(労働者及び起業家)の目標実現のための環境の実現である。

 1998年のILO宣言において4分野における「仕事における基本的原則及び権利(中核的労働基準)」が謳われている。この宣言はILOのみのためではなく、全ての多国間制度に関連し、フォーマル経済のみならずインフォーマル経済も含めたすべての状況に関わるものである。普遍的な内容であるが、国レベルでも地域レベルでも適用される。仕事における人権が普遍的であることとそれを人々や当局が主体的に適用することは矛盾することではない。

 4分野とは、結社の自由及び団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の撤廃、雇用及び職業に於ける差別の除去である。

2.仕事

 一般的に、人間の尊厳はその人が何をしているか、具体的には労働者、管理者、起業家として何を行っているかによって決定される。生きていくためには、貧困削減措置はより多くのよりよい仕事の創出につがっている必要がある。2年前のILO総会における事務局長報告において、貧困から抜け出る策として仕事が得られるようにすることが強調された。

 実際の雇用は実際のニーズに合致しなければならない。世界中に十分な仕事がないとする意見もよく聞くが同意しかねる。人災、自然災害の影響に対処することでさえも、大規模な雇用を創出するチャンスである。関係政府の強い意思があるなら、問題はどのようにして仕事という形にするかである。毎日世界中で約2億5000万人の子どもが働かざるを得ないという現実があるのに、仕事がないというのは受け入れがたい。

 仕事は若者の技能向上のための投資を必要とする。それにより若者に将来への確実な希望を与え、進歩できるという確信を失うという最も大きな危険を避けることができよう。

3.社会保護

 すべての人が働けるわけではなく、また働くことはない。若年者、高齢者、また当面ディーセントな仕事により生計を立てることができない人も、社会が面倒を見る必要がある。短期的な経済低迷には調整機能が必要である。ますます、長期的な構造変化の場合は、代替手段を模索する過程において、そのために保護が必要となるすべての労働者に対処しなければならないようになってきている。

 さらに職場環境における健康と安全についても対応していかねばならない。安全文化の育成と防護措置をしくのは、大きな仕事の集合体ではそれほど簡単なことではない。しかし何千という生命が毎日仕事に関連する事故で失われている。毎日職場で発生する死亡負傷が1ヵ所に集中していれば、世界の新聞の第1面に毎日掲載されるであろう。絶える事なき被災者の悲劇に加え、これらの損失の大部分は完全に防止できるものである。

 先進国、途上国両方において高齢化が進んでいる。さらに、多くの理由から若年層や高年齢層は労働災害や職業病の被害者となりやすい。グローバルな観点から、適切な引退年齢と報酬、移民などの問題を包括的に見直していかねばならない。

4.社会対話

 社会対話は、相関関係を持った問いに答えを出すためのいわゆる「手段」となる。団体交渉、情報提供と協議、さまざまな方法による参加と仲間に入れることによって、調整は行いうる。たとえば、職場での協力が職場における安全と健康措置の鍵となる。

 使用者団体も労働組合も変わるかもしれない。しかし企業を経営する人、公務を管理する人は存在し続け、そこで働く人も存在し続ける。社会と経済の発展はこれらの人々の利害をどう調整するかにかかっている、そしてまた、人間の安全保障もこれにかかっている。

 もしこの手法についての信頼を失うと、いろいろな格差を解消したり、今ある機会を最も活かすために意見を一致させたりするための人間らしいやり方がなくなってしまう。ILOのディーセント・ワーク・アプローチの中心となっている戦略的な目標に基づいて、直接仕事の世界に関わっている人の関与を通じて、公正なグローバル化がもたらされることになる。

 これに取り組む方法は、経済発展のレベルや経済力や経済のさまざまなニーズによって国ごとに異なる。私たちは、現在「ディーセント・ワーク国別計画」概念を策定中で、これは各国の総合的な社会・雇用政策を形作るのに役立つであろう。基本的人権、仕事、社会保護、社会対話から構成される包括的な取り組みができている。しかし、それをどう適用するかについては、各国の政府をはじめ他の重要なアクター、特に使用者、労働者、その団体が決定する。

 その他にも対応しなければならない新たな課題がある。ILOは特にグローバル化により浮き彫りになった多くの困難な課題を解決するために取り組んでいるが、日本の政府、労使団体に御支援いただき、心より感謝する。私は、仕事における人権に関わる問題−たとえば人身取引−について特に念頭においている。この問題は特に最近世界的に注目を浴び、ILOも新しい対策を進めつつあるところである。



最終更新日:2006年1月6日 作成者:AT 責任者:MH